“ドゴンッ!!!”という音が響き、鉄やセラミックの塊である歩兵戦車が文字通りくの字に曲がる。体当たりの威力を殺しきれず、そのまま歩兵戦車はゴロゴロと地面を転がり、沈黙した。
しかし時間は稼げた。”ウォーデン”目掛けて兵員輸送車とその周りに居る兵士達が銃撃を浴びせる。しかし、今までに”ウォーデン”に致命傷を与えられたのは現状120mmや155mmの高火力砲である。そんなチンケな豆鉄砲で止まる相手ではないのだ。
しかし、兵士もそんなことは流石に分かっている。兵員輸送車から降りた一人の兵士がロケットランチャーを疾速する”ウォーデン”目掛けて発射する。
不規則な加速を行いながらも獣目掛けて飛翔する誘導弾、しかし銃弾とは違う自らに向かってくる音に反応した”ウォーデン”は腕を正確に振り抜き誘導弾を弾く、急に横から衝撃を喰らった誘導弾は”ウォーデン”の横に着弾し爆炎を咲かした。
兵士「ロケランを弾くなんて反則だろ!!」
兵士「クソッ!!止まれ止まれ止まれぇ!!!」
銃撃を掻い潜り、勢いのままにウォーデンは兵員輸送車に向けて腕を振り下ろし、”グシャッ!!!”という音を起てて運転席を叩き潰す。あまりの衝撃に兵員輸送車の後輪が一瞬浮き上がる程だ。運転手は後ろの席と前の窓に潰され、弾け飛んだ体から出た血が”ウォーデン”の体を赤く染め上げる。
“カランッ”、”コロンッ”
暴虐の限りを尽くす”ウォーデン”の足元に転がるスタングレネード。何度も同種の自由を奪ってきた必殺武器だ。
しかし、獣には通じない。
“ドウッ!!!”という音と共に”ウォーデン”は衝撃波を”地面”に向けて放った。衝撃波は地面に衝突し、”ウォーデン”を中心に衝撃を撒き散らす。それはスタングレネードを一瞬にして遠方に弾き飛ばし、周りにいた兵士をも吹き飛ばす。
遠方に飛ばされたスタングレネードは爆発するものの、距離が遠くなった事で大した威力にならなかった事と、衝撃波の音にかき消された事で”ウォーデン”には通じなかった。
むしろ、スタングレネードがその威力を発揮したのは同じように吹き飛ばされた兵士達にである。
兵士「うわぁ!」
兵士「ぐぅ!!」
“ウォーデン”を倒すために使用した必殺武器は使用者達に向けて牙を向く。閃光と衝撃に兵士達は苦しみ、その場で蹲まる…この機を逃す獣ではない。
“ドウッ!!”
放たれるはいつもと同じ衝撃波、しかし”ウォーデン”は放つと同時に体を横に捻る。衝撃波はいつもの点による狙撃から、広範囲の薙ぎ払いへとその攻撃方法が変わる。
兵士「ぎゃ!!」
兵士「あ”んっ!!」
直撃すれば命を奪う衝撃波が、周囲の兵士を容赦なく薙ぎ払った。頭、腕、足といった千切れた体の一部や、分断された上半身や下半身が宙を舞う。
血まみどろの地獄絵図となった中心で、蹂躪の限りを尽くした”ウォーデン”は咆哮を轟かす。そして、足元に居る負傷し動けない兵士を捉えその剛腕を振り降ろそうとする。
兵士「ひぃっ!!」
兵士は迫りくる衝撃から身を守ろうと腕を頭上に向ける。勿論そんなのでこの獣が繰り出す攻撃を受け止める事など出来ない。命を刈り取ってきた剛腕が無慈悲に一人の兵士を叩き潰そうとしたその瞬間、轟音が鳴り響いた。
”ウォーデン”は突如飛来した物体に上げていた左腕を抉り飛ばされ、その衝撃で十数m吹き飛ばされる。そのまま近くの瓦礫の山に衝突し、盛大な砂埃を撒き散らした。
兵士「あ…ぅあ…?」
兵士は音の鳴った方向を見る。そこには中衛に居た”ウォーデン”との唯一の実戦経験があるダイバーズ含む中隊規模の部隊と105mm砲や戦闘支援装備を搭載した車両群が居た。
ダイバー1「…遅すぎたか…すまない。」
あるお伽話では英雄は遅れてやって来て、ピンチになった仲間を救うのだが、現実はそんな美談では収まらない。
彼らが見たのは蹂躪の限りを尽くされた2個小隊である。英雄達は来るのが遅すぎた。
その時、瓦礫の山を吹き飛ばして”ウォーデン”が姿を表す。左腕は千切れ青い血が滴り落ち、体のあちこちは複数の傷が刻まれている。
105mmの貫通弾でようやく傷を与えられた。異常な硬さである。
ダイバー1「これ以上…我々の部隊をやらせるわけにはいかん!!」
ダイバーズ含め各部隊は怪物に向き直る。
ダイバーズにとってはリベンジマッチ。オペレーション・バビロンにとっては第3ラウンドの火蓋が幕を切って落とされようとしていた。