とりゆっけ
補助龍 6641dc4fb6
2025/05/04 (日) 09:36:30
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楊は、頭の中が真っ白になった。終わった。全てが終わった。榊の取り巻きが躊躇うことなく唾を吐きかけてくるであろうことは予測していた。ハイゼンの日和見主義者が、できるだけ早く自分を見捨てるであろうことも予期していた。翁の議員が反対に回るであろうことも、予見していた。
唯一の頼りだったミューレンバーグの議員は、誰一人として楊煌明を行政長官に据えることに賛成していなかった。
違う。こんなはずではなかった。ミューレンバーグは何を考えていたんだ。あいつの誠実さ、協力の意思、2人で同じ泥船に乗っているという自覚はどうしたんだ。だが……それもミューレンバーグが、新たな後援者を見つけていない限りの話だ。 激動の時代を切り抜け、楊がもたらしたどれよりも輝かしい未来をもたらす、新たな救世主を。そう考えると、楊が中古の酷い噛む玩具のように埃まみれとなり、捨てられた理由にも納得がいく。自分はもう、必要とされていないのだ。
独りだ。闇と堕落の中を彷徨い続ける中、頼りにしていた1人の男にすら裏切られた。
頭を抱えた楊は、敗北と落胆の表情を浮かべながら、椅子に座り込んだ。監督官が自らの肩書きを正式に取り消す際にも、楊は耳を傾けていなかった。どうせ、数日後には失脚してしまうのだから。今度は、楊は周囲が沸くのを聞き逃さなかった。自分を切り刻み、ロンドンに送るために最も良い方法を、1人の議員が嬉々として宣言していたのだ。テーブルの上に小さな紙を置く手に、楊は気が付いていなかった。親しみを込めた記念品、裏切りの象徴、そして別れの手紙であった。
“悪く思わないでくれ…楊よ”
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