「そして今、この名誉ある機関に別れを告げる前に、我々はもう一度、台湾の日立製作所と新北重工業株式会社の同胞を心から数迎しましょう、汎アジアの日的のために我々と共に努力するのです」
誰だってそうだろう。45度のきちんとしたお辞儀、あまりにも輝かしい笑顔、菊の紋章のついた漆黒の服から発せられる礼儀正しさは、ハイゼンの取り巻きでさえ要敵の念を抱くほどだ。坂下栄一郎をちょっと見ただけで、この新興国の男が実業、それも最高のものを意味していると分かるだろう。しかし、拍手喝采と「心よりの歓迎」の裏で、広東の精鋭たちの間には、「石頭の日本人は、この国にはふさわしくない」という暗黙の了解と、いつもの恐怖と疑心暗鬼が潜んでいた。まだ、そうではないの だ。
しかし、坂下にとっては、そんなことはどうでもよいことだった。 会議が終わり、広東の大物たちと知り合いになる時が来た。予想通り、不安な気持ちになるのは彼ではなく、彼らだった。SECは、 握手の震えを隠すかのように、短く、素っ気なくうなずいた。翁敬黎は、元気な挨拶に漂う軽蔑と不安を拭い去ろうとはしなかった。李盛篤(地元の方でしたっけ?)は、言葉を詰まらせたり、濡れた額に手をやったりしないと、最後までしゃべることさえできなかった。すごい人たちである。
そして、自称空想家の榊貞一が、クソみたいな笑みを顔に浮かべて登場した。
「ようこそ、立法会へ!」
その声は、坂下の耳元をかすめると、小声になった。
「何も面白いことをするために入れたわけではないんだが、何のために来たかわかっているのかね」
これには坂下も苦笑いをこらえるしかなかった。
「安心なさってくださいませ、みなさま」
新北の狭い会議場で何度もやったように、彼は声を張り上げた。今回だけは、広東全土が彼の境界となる。彼の臣民なのだ。
「やはり、我々には果たすべき使命があるのでしょう」
・新北重工業株式会社
台湾に本社を構える日立の子会社
・坂下栄一郎
新北の社長。日本からの刺客であり広東の人々を見下している。