「どうしてアンソニーのことを庇うのです?エミー、貴女には関係のないことでしょう?」
『だって……彼が可哀想だったから…』
周りの先生たちがあちこちに動き回り、エミー・バンプには知りもしないような作業を続けながら時々こちらを覗き込むような、それでいて目を逸らしたいように振る舞う。
「…一応内容をまとめてみましょうか。昨日の放課後に、アンソニーがマイケルとフランクリンにいじめられていたと…、それで?その時貴女は何をしていたの?」
『怖かったからずっと見てたの…、先生に言わなきゃって思ったけど、隠れて聞いてるのがバレそうだったから』
「なんでアンソニーがそんなことされていたのかもう一度教えてくれる?」
『2人が…アンソニーのパパがアカだからって…、あまり意味は分からないけど、多分それだからだと思う』
その言葉を聞いた途端、目の前にいる担任がしわだからの顔を歪めて大きくため息をつく姿にエミーは多少の悲しみと苛立ちを感じた。
「エミー、アカという言葉の意味を知っているかしら?」
『色のこと?…うん…わかんない』
「難しいお話だけど、しっかり聞いて頂戴、エミー。アカという言葉は共産主義者っていう悪い考え方を持った悪い人たちのことなのよ」
いくら思い出そうにもエミーには共産主義という言葉を一度も聞いたことがないという事実に彼女は気がついた。まだ彼女の表情には苛立ちとそれに伴う困惑が浮かんでいたが、担任の言葉を聞けないほどその感情は強くなかった。
「良いわねエミー?先生も本当のことは知らないけど、マイケルとフランクリンが正しいのなら、アンソニーのお父さんはその悪い人たちの1人ってことになるの。そういう考え方の人たちはいつかこの国を壊そうと企んでいる。貴女の家もお父さんとお母さんも壊されちゃうかもしれないのよ?」
『だけど…本当はそうじゃないかもしれないし…』
「だけど、本当はそうかもしれないし、貴女にもそれは分からないのでしょう?」
『…』
何も言い返せなかった。
「……ごめんなさい。難しいお話だったでしょう?アンソニーの件は分かりました。あとは先生たちに任せて頂戴」
「わかったわね?エミー」
『…』
エミーの表情はまだ担任を小さく威嚇するようなものだった。一方で担任の表情は一見すると微笑みのようにも見えたが、裏では演技のような、どうでも良さを感じさせるような、何か難しいことを考えているようにも見えた。
エミーは一瞬、自分の力でアンソニーの事を助けてあげるための方法を模索しようとしていたが、それをすぐに諦めてしまった。
何故なら、彼女のその考えを大人たちは望んでいないという事実は明らかだったからだ。