暖かなフロリダの風がエイボン・カーク・クリフォードに吹きかけ、彼は野原を踏み締めた。高低差のない平原はどこを向いても景色が良く、数分間歩いた末、ついに利用的な観測地点に辿り着いた。長いケースを下ろしそこから椅子を取り出して設置する。三脚をできる限り水平な位置に置きその上に望遠鏡を取り付ける。
もちろん危険が伴う行為だ。彼の身分を知るものなら、そして悪意持ったものがそこにいたならば彼はすぐに誘拐されていただろう。幸運なことにそのような存在は見当たらなかった。治安維持の重要性も彼は認識した。暇が出来次第、すぐさま取り組むべき改革の一つと言えるだろう。
そのような危険を犯してもなお彼がここに居続けていたのは単純な好奇心によるものだった。かつて自分のような男たちが地球をその広大な宇宙から眺めたという事実、そしてこの地から月へ飛び立つ三人の男たちを輩出したという栄光。不運にも持病が原因で空を飛ぶ夢を諦めた彼はならばせめて彼らを全力で支えるための道を選んだ。
時計を確認すると、そろそろ時間だ。宇宙センターの方向を向きながらコーヒーを楽しむ。宇宙センター内からこれを見るのも良かったがそれより野外で見る方が好みだった。轟音が耳に響き夜空が炎で赤く照らされる。技術を糧に突き進む未来は宇宙へと飛び立つ。おそらく同じような考えを持った者は帝国にも居るのだろう。ロケットが空を切り開く様を眺めた彼は再び決心した。
我々はいつか火星を旅してみせる。
・エイボン・カーク・クリフォード
フロリダ自治領首相、穏健技術主義者。
・宇宙センター
パークス宇宙センター。史実で言うところのケネディ宇宙センター
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