テイラーは紅茶を口にした。少し砂糖を入れすぎた気がしたが、なんとも言えない緊張感を解すのには適した量だった。目の前の男…元国民党出身で「血の川」と呼ばれる演説で知られるデレク・パウエル議員は彼女にとっても未知数な人物であったが、彼女が思っていた以上に話が出来そうな相手であった。こういう相手との場合は、出来る限り早く打ち解けるようにしておくのが良い。2人はしばらくの間紅茶を楽しんでいたが、パウエルが切り出した。
「いい夜ですな、首相。予測するに、私の今後について話すため私を呼んだのでしょう?随分と大胆だ」
『こういった内容を話す場合は夜に限りますね。国民党が解体された以上、貴方の行き先はおそらく地方政党でしょう?』
「そうなりますな、つまりあなたはそれを防ぎたいと」
再び紅茶を飲んだ。話していると、鏡を相手しているような気分になる。時代が違ければ彼女もパウエルと同じような人生を歩んでいたのかもしれない。パウエルが髭を擦ると、再び話し出した。
「もしあなたが私であれば、同じことをしたでしょうな。首相」
『私は本来なら国民党にいるべき人材でしょう。政治的な合致点も多いです。では何故貴方の忌み嫌う保守党にいるのか、あなたには分かりますか?』
「あなたの努力は認めます。おそらくは保守党の改革のためといったところでしょうか?私が成し得なかった伝統を保護する…、守旧派のことを考えると険しい道でしょうな」
『価値はあります。この国を政敵から、アカから、ナチから護り抜く。そのような強固な選択をできる者は貴方しかいないのです。パウエル議員』
パウエルは少し悩んだ様子を見せたが、その表情はすぐに消え去り、光が彼の顔を照らす。カップを持ち上げ、首相を見つめる彼は彼女に向け一言述べた。
大英帝国に乾杯。首相閣下
・デレク・パウエル
反移民を掲げる議員。元々保守党に所属していたが、「血の川」演説により移民政策を非難したことにより保守党から除名。その後国民党の副党首を務めていた。テイラーとの意気投合により保守党に帰還。