ミュアンダ市のこの日、空には一片の雲もなかった。
風は微弱で陽は鈍く港には平時の音が響いていた。路地裏では子供がサッカーして遊び、パン屋はいつも通り生地を練り、犬が陽だまりで丸くなっていた。
だが誰も知らなかった。この都市の下水道に既に水はなかったことを。
最初の兆候が始まる。市場の通気孔から白い気体が昇った。特に騒がれることはなかった。煙草の煙か、排熱かその程度の認識だった。
それから約20分。
誰もが咳き込んだ。
街中の通りで、建物で、学校で。
子供が目を擦り、老人が鼻を押さえ、母親が顔をしかめた。
それはやがて恐怖へと変わる。呼吸が苦しい。目が焼ける。皮膚が痛い。誰も正体を知らない。知らされない。「事故?」「毒?」「病気?」とささやき合いながら、市民は戸を閉ざし、窓を塞ぎ、建物の奥へ奥へと逃げた。
だが、逃げ場はない。
午後、ついに限界を迎える者が出始めた。
子供の呼吸が浅くなり、老人が意識を失い、扉の向こうで叫び声がこだました。
「外へ出よう!!」
「ここはもうダメだ!!」
人々はドアを開け、路地に飛び出し、まだ焼け残った空気を吸いに走った。誰もが思った、外に出れば、助かると。
太陽が出ている、風がある、人の声が聞こえる。それだけで希望だった。
彼らは知らなかった。その行為が、死への合図であることを。
上空に、黒い影が現れる。ローター音を震わせながら現れた3機の武装ヘリ。機体側面には鉤十字に似た紋章。下部のハッチが開き白い球状の弾が落とされた。
白リン弾。
空中で炸裂し灼熱の雨になり人々の上に降り注ぐ。
皮膚に貼りつき、骨を焼くまで燃え尽きず、服に、髪に、目に入り、人々を火で包む。
子供が走る。母が覆いかぶさる。
男が水をかけるが、白リンは水で消えない。
逃げ出してきた人々は焼かれた。そして生き残った者たちに向けて次の武器が向けられた。
ヘリガン掃射。
ヘリの腹部が傾き、三連装のガトリングが回転する。
通りを、人を、壁を、瓦礫を貫く。
言葉も、叫びも、祈りも届かない。
抵抗などなかった。武器もなかった。
ただ外に出ただけの市民が、射線上にいたという理由だけで殺されていく。
誰が命じたか。なぜなのか。誰に向けてか。
その問いを口にした者は一人残らず死んだ。
司令部からの報告はこうだ。
「ミュアンダ旧市街、制圧完了。民兵拠点の制圧確認。抵抗の痕跡なし」
軍用催涙ガス、催吐ガス、気化剤、CO2ガスを混合したものを水を抜いた下水道を通して市街全域に流し込み、建物から出てきたところを白リン弾とヘリガンで攻撃した感じです()
あの上陸部隊を前にして市街に残ってる奴は勇気あるゲリラに違いありません