時間 ルイジアナ州とテキサス州の交換成立の少し前
パリのベルサイユ宮殿の地下、陸、海、空軍の重鎮と国防大臣、外務大臣、そして女王陛下という、この国のトップが集まっていた。
「率直に、現状が聞きたい。」
重々しい空気の中、最初に言葉を発したのは、女王陛下だった。
「ええ、、、、帝国からのテキサス州の譲渡要求がありました。以前領有していたルイジアナ州との交換条件で。不可侵条約と併せての要求でしたので、現在は技術提携を含めた相互援助体制の確立、維持を条件に交渉を進めています。」
感情のぶれなく、外務大臣は淡々と事実を述べた。
「領土の割譲など、言語道断であるだろうがっ!!!」
声を荒げたのは陸軍のトップ、ハンス大将だった。
「ルイジアナ州はハイテク産業、港湾産業の栄えた合衆国の生命線の一つだ!それを失うことの重大性を外務大臣は理解しているのか?!」
彼のいう事は至っておかしなところは無い。何より、国土防衛を主とする陸軍の人間としては、度し難いものだったのだろう。しかし、外務大臣は反論する。
「ハイテク産業に関しては、バルト三国のそれぞれが、非常に優れた技術を有していますし、何より港湾能力でいえば、造船設備を有するルイジアナのほうが、領有する価値はあると考えている。それに、領有を手放す代わりに、不可侵と技術、軍事、様々な点で支援、リターンを得られる。合衆国の安全を考えれば、この選択は最善のはずだ。それとも何か?陸軍は帝国と戦端を開きたいのか?」
”戦端”その言葉に場は凍り付いた。
女王陛下は海軍、空軍のトップ”ワッケナー大将”と”ミレンネ大将”に尋ねた。「戦って、勝てるのか?」
「正直に申し上げて。」
最初に口を開いたのは海軍のトップ”ワッケナー大将”
「勝てません。わが海軍は、帝国と戦争を出来るようには出来ておりません。ですが、もし現有戦力でやれと言われるのであれば1年は暴れて見せましょう。」
続いて空軍の”ミレンネ大将”が答えた。
「有利に立つことは出来ます。ですが、相応の損害は覚悟すべきでしょう。それこそ、戦後空軍が再建できなくなるとお考えください。」
これらの意見を聞き、女王陛下は端的に、だが明快にまこの意見をまとめた。
「つまり勝てないということだ。そこまでの出血を被ってまで、国民を危険に晒すわけにもいかない。何より、コンゴと欧州大陸の二つに戦線を抱えている今、この国にそんなことをする余裕は無い。」
ハンス大将は反論しなかった。
「では、そういう事だ。外務大臣、報告の通りの方針で帝国と交渉を進めてくれ。」
「了解しました。」
重々しい空気の中、密会は幕を閉じた。