日が沈んだ夜の八時過ぎ。上海警務局の隅にある予備室には、薄暗い照明が灯っていた。乱雑に並べられた椅子、壁に貼られたさまざまな地図、そして部屋の中心には大きなテーブルが据えられている。 雷 天瑜はテーブルに広げた地図と駒を睨みながら思考を巡らせていた。部屋にそっと入ってくる男の気配にも気づかぬほどに。
「まだいるのか? そんなに働いても残業代は出ないぞ」
「...ああ、長官ですか。仕事が片付かなくて、退勤できずにいます」
テーブルには、日本とその周辺を描いた広域地図が広がっている。北はカムチャッカ半島、南はスマトラ島まで及ぶその上には、さまざまな形の駒やメモが置かれていた。
「どうだ? 進展は」
「紫門の売人がフィリピンに出入りする頻度は確実に増えています。ただ、フィリピン国家警察では十分に調査できておらず、取引の内容までは把握できていません」
「たしか積み荷が普通の麻薬取引にしては大きい、という話だったか」
「はい。それと長官。以前、OMONからの報告があったのを覚えていますか?」
「そういえばあったな。紫門とマフィアが武器取引している可能性があるだとか」
長官が答えながら、テーブルのメモに目を移す。カムチャッカ半島のあたりには"港湾へ武器輸送、紫門売人が目撃"と書かれたメモが貼られている。長官がそれを見ていると、新たなメモがビサヤ諸島の上に追加された。
「“フィリピン人民軍の活動が活発化する可能性” ...つまり、カムチャッカで製造された武器が、麻薬と交換されて人民軍に渡っていると?」
「可能性はあります。だから日本政府に調査支援を要請したいと考えているのですが...」
「無理だろうな。やつらは本土に火の粉が飛ばない限り、動こうとはしない。支援を望むなら...駐留軍の憲兵の方がまだ現実的だな」
長官はテーブルの上に転がっていたマグネットを拾い、マニラの位置に置いた。そして、ひとことメモを書き加える。
第16警務大隊へ支援を要請、と。
長官上海警務局長官。名前は募集中。46歳くらい
雷 天瑜:上海警務局特殊部隊『雷龍小隊』隊長兼情報分析官。雷撃てる人。残業代が出ない。
紫門:上海市で活動するマフィア。活動範囲は広くスマトラ、カムチャッカなどでも売人が目撃されている。
フィリピン人民軍:フィリピンで活動する反政府勢力。近年活動が鎮静化していたが活発化する可能性がある。
第16警務大隊ヤバイ人たち