「止めろ」
ペストマスクから出る触手を白衣を着た龍人が素手でそれを塞ぐ。金色に輝く小麦畑で、小さなサイロか倉庫か、れんが造りの壁に崩れ落ちるように座る。龍人は一体どこにいた?彼女の発音をよく聞いてみれば酷い広東訛りの英語だ。ペストマスクが龍人を困惑の様子を見せながら覗く。
「何故?態々生かしておいて何の得になる?」
「生かしておけばより多くの知見が得られる」
「ここで取り込んでしまえばそのようなこともしないですむ」
「それがお前の言う同族の進化のためってか?」
「そのためにここに来た」
「…このことを処理すんのはシナノの仕事だ。政治が絡んでくることになる」
「面倒ごとを避けたいなら回収するのはこいつの一部だけにしといた方がいい」
「…ではどうするつもり?」
「能使敵人自至者、利之也。能使敵人不得至者、害之也…」
龍人がアーサーの方に向き直ると、背中から大剣を取り出して彼女の頭に向ける。命乞いをする気力もないのか、それともそれを諦めているのか、彼女は全く抵抗しようとしない。
『あなた…一体どこに?」
弱々しく血の混じった音が喉から飛び出す。傷が痛むのか上手く発音できず一部が途切れ、龍人はそれでも構わず剣を向けた。
「レッドオーシャンの回し者…治安介入情報局か。我々はイベリアから来た」
『……何が目的?』
「単なる観光だよ。事を荒立てるつもりもない」
「我々の要求は二つ。一つは私たちが何かしない限りお前たちも何もしないこと、さっきも言ったように目的は観光だ。お前たちに危害を加えるつもりはない」
『…』
「そしてもう一つ。お前の身体の一部をコイツに提供してやること。どこにするかはお前が決めろ」
穴の空いた自身の手を見て、腹を見て。
出てくる血を拭いながら見つめる龍人からの視線に目を逸らす。
「っま、いきなり言われてもって感じだよな。その様子だと再生は人間と同程度ってとこか?」
「まぁいい…適当なとこに連れてってやる、そこで治療を受けろ。代わりにお前の手から一部もらう」
龍人が彼女の手首を掴むと、一瞬立ちくらみを感じながらもなんとか彼女は立ち上がった。力無く弱々しい動き。いつまで歩けるかも分からない。
「おいカッル、手伝え」
「君がやっていることだろう。私に何の関係がある?」
「おめーとその同族のためにやってやってんだぞ。少しは手伝え」
多分これで終わりです。疲れたので足んない部分がありましたら番外編でも作って補完しましょう()