マニラ首都圏に位置するフィリピン陸軍司令部、キャンプ・アギナルドは在比日本軍司令部などが設置される大型基地であり、様々な部隊が駐留していた。第16師団付属警務隊もここに本部を置いている。
第16警務大隊隊長の長井二佐は薄暗い警務隊本部室のオフィスチェアでくるくると回転しながら資料を眺めていた。
南部フィリピンの併合以降、管轄地域の増えたフィリピン駐留軍は多くの問題を生み出し、それを対処する警務隊たちは常に疲弊していた。
長井がペンを回して遊び始めたとき、電話が鳴った。
『はいこちら第16警務隊本部です。あなたは犯罪者ですか?』
『...は?いや、上海警務局長官の杜だ。少し協力してもらいたいことがあって連絡させてもらった』
『ふむふむふむふむ。上海の番犬さんたちがフィリピンの警務隊に協力を...麻薬関連ですかね?』
長井は電話を片手に上海警務局の資料を取り出した。日本に属する都市の中でも最大級の都市である上海市を守る警務局、それの長官が直接に師団隷下の部隊に協力を要請するのは珍しいことだった。
『日領ロシアで密造された銃器が紫門の仲介で麻薬と引き換えにフィリピン人民軍に流れている可能性がある』
『あなた方の仕事の範囲から少し離れたことまで調べているのですねぇ。しかしその手のことなら
『PNPの調査力では足がつかめないが、第16警務隊なら可能だろう』
『確かに彼らじゃ取引が終わった後に現場につくでしょうね。しかし我々では人手が足りない、フィリピン全体を調査するのは難しい。それに我々の仕事は駐留軍内の犯罪者を粛清すること、人民軍の調査は業務外です』
『駐留軍が腐敗しているからあなた達に協力を求めているんだ。こちらからはわかる限りの情報を共有する』
『ふーむ。考えておきます、返事はまた明日にでも』
そう告げて電話を切った。あくびをしながら机をあさり、昨日届いた報告書を探す。
書類の山から掘り出された書類には「南部の共産勢力と人民軍の合流について」と書かれていた。
杜 山:上海警務局長官。日本語が使える。
長井二佐:第16師団隷下第16警務大隊隊長。頭のおかしい人。軍内の麻薬密売の調査を行っており、調査の過程で民間人に拷問を行った容疑がかかっているが駐留軍によって黙殺されている。
第16師団:フィリピン駐留軍の部隊の一つ。フィリピンのギャングとその密売に加担する将兵の問題に悩まされている。
フィリピン国家警察:フィリピンの警察機関。日本の進駐以降、権限を縛られ能力が大きく低下し国内のギャングの動向の調査すら満足にできなくなっている。