「…ま、まあとにかくこんなところで時間をかけるのもなんだ。
とっとと出発しようじゃないか」
「…そ、そうですね!」
この微妙な空気を振り払うために、
彼と一緒に歩き始める。
目的地まで早く着くといいな。
「わぁー、すごーい…」
治安の悪い所だから当然雰囲気も悪そうという
私の予想に反して、大通りは活気に満ち溢れていた。
車道には半装機式オートバイや古い乗用車が所狭しと走り回り、
反対に歩道には商店がずらりと並んで
ありとあらゆる品物を売りさばいている。
「これが海南島だ。
こういう場所も案外楽しい所だぜ」
「そうですね。
こういう場所には近づかないでって
いろんな人から言われたから、
まさかこんな所だって思いもしませんでした」
そんな話をしながら歩いていくと、
道端にある屋台の店主から唐突に話しかけられた。
「お嬢さん、おいしい
一つ63コルナ、今なら一本おまけするよ」(注:日本円に換算して450円ぐらい)
「へー、美味しそう…」
美味しそうなきつね色でねじられた形の
揚げパンみたいなものが目の前に差し出させた。
「お前、財布スられたばっかだろ」
「…あ」
景色に目を奪われて大事なことを忘れていた。
まあ家に帰ってからでも買うことはできるし、
後で食べてみようかな?
…さて、視点を少し彼女の後方に移す。
そこには2人のストリートギャングがいた。
一人は銃を握っている片手をポケットの中に突っ込み、
もう一人はサミュエルと倉田をじっと見ている。
「あのガキは絶対に大金を落としてくれるぜ。
何せ、日本人は礼儀正しいからな。
身代金だってきっちり払ってくれるだろ」
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