労働党議員会議における政策方針の対立から発展した党首ドワイト・ラッテンバーグとアーレ・ブラウダーの極めて激しい対立、それは労働党内のみならずウルグアイの政治全体に影響を及ぼしていた。労働党の内部対立によって圧倒的な個人的人気を誇るオルドーニェス大統領率いる与党自由党を阻む勢力がいなくなる事危惧したブラウダーとラッテンバーグの両者は和解に至るため2者会談に踏み切った。
田園地帯の中、ブラウダーの家は農民の集団居住地の中にある。周りの人が掃除をしてくれている為、彼の家の前は郊外の集団居住地として綺麗な方に入る。それでも、正装を着たラッテンバーグの前では見劣りするだろう。ラッテンバーグの服の生地は地方の人々から見たら別世界の物のようでもあった。彼が来た時ブラウダーはちょうど玄関に立っていた。ラッテンバーグは時間に正確である事を美点としていた。
「こんにちは、ラッテンバーグさん。ようこそ、我が家へ。」
ブラウダーは握手の手をラッテンバーグに差し出した。ラッテンバーグはその手を握る。その様子は先日の対立からは想像もできない。ブラウダーは応接間にラッテンバーグを招くとコップ一杯のマテ茶を出した後、早速話題に入った。
「ラッテンバーグさん。単刀直入に言います、この党内分裂をどうするつもりですか?このままでは、あのオルドーニェスに勝つどころか議席の4分の1をとることも不可能になりますよ」
ラッテンバーグは質問に質問で返した。
「青年局は妥協の兆しはあるのか。あれが反対し続ける限り党はまとまらんぞ。ラッテンバーグ派の強硬派や青年局解体派は妥協させた。あとは青年局の妥協だけだ。」
「青年局の幹部は全員ラッテンバーグ派との和解に賛成しました。…しかし、地方までを解決することは現実的に不可能です。これからは、地方の学生に向けて遊説に出ますが…効果はそれほど期待できません」
ブラウダーは地方議員の名前などをいくつか挙げながら、それは右派修正主義者などと罵られる恐れを抱きながらも地方議員に対してブラウダー自ら妥協の利点を説いて回った事を説明した。それは、若手中堅の中心人物であり党執行委員会副委員長であるブラウダーですら、現地に赴いて直接働きかけねば止められない動きが存在する事を示していた。
「それで、オルドーニェス政権とはどう妥協するのですか?認めるのは癪ですがオルドーニェスの行動は純外交政策的、純軍事政策的には間違っていません。専門家も彼を支持しています。マラカナン級5隻を売りつけるのも解体費を削減と新型艦の建造費の一部調達を達成する方法の一つであります。1面とはいえ、正しい事をしている人物を説得することは難しいでしょう」
ブラウダーの指摘は尤もだった。新型フリゲートの建造案を含む第4号建艦計画は上院を追加して残りは下院の通過のみという状況。下院でも労働党の議席は自由党を下回っている。ストライキ以外にオルドーニェスを止める方法はない。
ラッテンバーグは少し悩んだ後答えた。彼の顔には何かの決断の色が浮かんでいた。
「私に任せてくれ。自由党とは折り合いは既につけてある」
その後、オルドーニェスとの二者会談についてラッテンバーグは話た。オルドーニェスとの自分の関係は公にしない予定ではあったが、70を超えた彼には病状不安が付き纏っていた。彼はラッテンバーグ派のことを含めた労働党のすべての情報を100枚の書類にまとめブラウダーに渡した。
円滑したブラウダーへの権力移譲には、早めに行動を開始した方が良いだろうと彼は考えた。彼は決断した。ブラウダー以外に新しい党首に相応しい人物はいないのだ。
ちょっと理詰めで描きすぎた。人間味がない。