「ほぉ?それで私を呼んだと…」
凱旋門から少し歩いた先、白色の歴史的な風景に並ぶ小さなカフェのテラスに2人の女性がいた。一方はワンピースにガーターベルト。感情を抑えているような不自然な様子に対比して向かい側には白衣とチューブトップを身につけた女が足を組んで座っている。
『そう、だからとぼけたって無駄よ。証拠は証言も含め全てあるわ』
「そりゃご苦労なこと…この国の政府関係者か、それとも探偵かなんかか?まぁいい、それで私に何のようだ?」
女の偉そうな態度に一瞬腹が立ったが、彼女は感情を抑えることにした。いくらアーサーの仇とはいえここで殴りかかりでもすれば間違いなく不利になるのはこちら、少なくとも相手が一体何なのかくらいは特定しないと話にならない。
『あなたが殺そうとした女性の話よ。何故彼女を傷つけたの?理由もなく…』
『こちらは相応の責任を負わせることだってできるのよ?貴女の身元は特定してある』
「友人か仕事仲間か?どんな理由かは知らんが、少なくとも私は殺そうとなんかしてないぜ」
身元が特定してあるだなんて嘘だ。ルーカスさんが調査中だけれどもまだ結果が来ない。アーサーの知る内容を医師から部分的に聞いたのみで、誰がやったのかも詳細は不明。刃物で何箇所も刺突した跡があるというだけで、外見的特徴しかまともに知らないし名前すらわからない。
『じゃああの怪我は一体どう説明するつもり?もう1人ペストマスクを被った女性がいたと言うけどそっちの方が全てやったと?』
「だから言ってんだろ?私はただずーっと見守ってただけ。全部アイツの方がやっただけだ」
『…その証拠は?嘘かもしれないことを信じろと?』
「生憎ないね。強いて言えば…傷跡とかじゃないか?私は刺突武器とか持ってないもんでねぇ…」
随分と難解になってきたのを感じる、まるで探偵みたい。ではこの女は一体何のためにあの場に居たの?そもそもの正体すら掴めていない以上、いくら考察しても意味がない。何かしらの手段を使ってそれを導き出さないと、早く情報を…電話?
《ルイーシャ、頼まれていたことがあらかた済んだ》
『本当?早速教えて』
《ソイツの名前は閏。率直に言ってしまえばコイツも人間じゃない、明らかになっているだけでも100年は生きている異教徒だ…現在の中華民国広東省出身で年齢、経歴も不明な部分だらけで話にならん》
『それでもいいから続けて』
《わかった…国共内戦後香港を通じ英国に亡命。英国王立陸軍に70年従軍し中将まで昇格後イベリアに移住し、情報によればマドリード隠居しているか何かしらの仕事に…いや今回の件から考える限りその可能性の方が高そうだな》
このまんま適当に欲しい情報引き出していってくだされ()