かとかの記憶

宇宙説話 / 34

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katka_yg 2025/08/14 (木) 20:19:58 修正

ガンダムに身を変えるリガ・ミリティア

衛星軌道から降りてきたばかりの若いベスパ隊員が仲間とともにハンティングに励んでいた。その日は一六〇〇キロを飛んでヨーロッパの街々を焼き、機銃攻撃で地球人をハントした数を仲間と競っていた。狩りのさなか、大きな白いモビルスーツを追った若者はいつしか仲間のベスパ達とはぐれ、北ヨーロッパの原野深くに入り込んでいった。

白いモビルスーツは金色の角を振り立て、追う若者の視界の先を、遠く近く、切れぎれの雲間に見え隠れしながら飛んだ。何度かの銃撃を浴びせたものの、モビルスーツは深傷を負った脚を引きずりながら、山脈を越えてどこまでも逃げていくのだった。やがて日が暮れていき、不毛な追撃にも疲れた若者がふと辺りを見回せば、見も知らぬ惑星の沼地で一人、孤立している自分に気づいた。

宇宙の民にとって荒廃した地球上の地理の知識は皆無に等しい。若者のモビルスーツの燃料は残り少なく、迫ってくる夜を過ごす場所も知らなかった。地球人の一挙撲滅を掲げているベスパは、ハンティングの際も老人にも子供にも容赦がないので他のマンハンター達から嫌われていた。近在のマハに連絡もつかず困窮しているところ、前方の岸辺に、灯火の光が見える。中世の砦跡らしき石積の城のようで、近づくにつれ、人々の宴支度の物音が聞こえてきた。

巨木そのものに見える門柱にモビルスーツを繋ぎ、若者は砦の入口に立って案内と一夜の宿を乞うた。迎え入れた砦の人々は前世紀の地球民族に似た古めかしい衣裳をまとい、長い髪を束ねて髭を伸ばした、見たかんじケルト人に似ていた。宴の席では豊富な肉の量と酒の量に驚かされた。歓待づくしの後、しばらくあって姿を見せた砦の主は白皙の壮漢で、金色の眉と頬髭には風格があった。

主の語りだす昔語りによれば、リガ・ミリティアは代々地球上に住み、この北ヨーロッパの地で抵抗運動をしてきた。近頃になってベスパがやって来ると、仲間達は次々に狩られて数を減らし、今ではこの古城の一族だけが生き残り、抵抗運動を続けているという。主が席を立つとき、若者は、彼が片脚を引きずって歩き、白いモビルスーツと同じ処に傷を負っていることに気づいた。

翌朝には若者は砦を発って、モビルスーツのヘリコプタ能力でなんとか飛行を保って帰路を辿った。別れ際に短い挨拶だけを交わした、砦に住む美しいリガ・ミリティアの娘の面影が目裏に残っていた。基地に帰ると、仲間のベスパ達は彼の報告を信じず、地球上のリガ・ミリティアはずっと昔に滅んでしまったと笑うばかりだった。ハンターによる上空からの探索が何度か行われたが、砦の場所はその後も結局見つからなかった。ベスパ隊員の若者はやがてハンティングにも飽き、仲間と別れて一人宇宙へ帰っていった。(宇宙世紀二〇〇年頃、地球)

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