ひとつには、これは連作短編集の一篇で、これひとつで宙ぶらりんな結末に見えても集を通して全体で完結性が見えるかもしれない。
また、後の作品の話になるが『水底の仮面』(ヴェヌス1, 1998)のストーリー前半はこの「ゴルゴン」の筋をそっくり踏襲しているようで、ロマンチストの青年、「石の顔」の娘、その現実を知って一度は打ちひしがれること……のあと、後半はそのロスを奪還する愛の物語になって、それならタニス姉貴だ、という小説が一冊書き足される。
さらに、そもそもこの「ゴルゴン」のシチュエーションは、リーの「The Birthgrave」の要素のひとつで、その世界の未婚女性は(イスラム女性のするような)面布で顔を覆う風習があり、主人公の語り手もそれを着けて全編を覆面して過ごすことの、再話だった。それは女子からの語りだがこのたびは上のように男性目線から全然違うストーリーとして語られる。でも真実は同じかもしれない……。英国の選考委員は作家の代表作は当然承知して選考すると思えるから、この理由はその代表作が未訳の日本人読者にはそもそも解説抜きでわからないのと違うか。ちなみにバースグレイブはネビュラ賞授賞作。
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上のところまでは前回、既に書いた。リーにかぎったことではないが、海外作家の理解は未知が未知に連鎖して基本的なことが全然わかっていなくて受容されているのかもしれない。
今、あらためてもうひとつ足すと、『ファンタジー作家にとっての恐怖は、ある日、このさき作品を書いていくモチベーションを失ってしまうことだ』という吐露をふっと漏らしていることはまた気になる。この意欲旺盛で多作なリーが……。このときはまだ85年だが、88年のパラディスに準備しているものは多分この頃からある。