ラクス急落
「パソコン内にある領収書の画像を基に、経費精算リポートを作成して」。話し言葉でこんな指示を出すと、AIがネット上だけでなく端末上に保存されたファイルの内容を確認し、ものの数分で表計算ソフトに集計結果を書き込む。
米有力AI新興アンソロピックが1月に発表した新サービス「Cowork(コワーク)」がこなす作業の一例だ。これまでインテュイットなどのSaaS企業が提供していた会計ソフトが代替され、需要が減る可能性がある。
生成AIを使ったプログラミングは過去1年ほどで一気に性能が高まり、一流プログラマーに迫る腕前になった。コワークではこの技術を応用し、プログラミングをしない人でもパソコン作業をAIに頼めるようにした。
アンソロピックのコワークの開発ではコードの大半をAIが書き、約10日で完成させたという。同社のダリオ・アモデイCEOは「あと1年もすれば(AIの基盤)モデルがソフトウエア開発者の業務の大半、またはすべてをこなすだろう」と見通す。
SaaSの提供企業は、ひとたび業界標準を握ればサブスクで手堅く収益が積み上がるとみられ成長期待が高かった。ところが生成AIの登場により一気に競争力を失いかねないと投資家が警戒を強めている。AI新興のなかでも法人向けに注力するアンソロピックが新技術を発表した翌日、インテュイットやセールスフォース株が急落した。
米ゴールドマンはアドビに売りの投資判断
AIによる変化を象徴する銘柄がアドビだ。画像編集の「フォトショップ」や描画の「イラストレーター」といったソフトは習熟が必要で、デザインのプロに重宝されてきた。米ゴールドマン・サックスはAIの普及で職人技の価値が下がるとみて「アドビのツールを使いこなす価値は減少している」と指摘し、売りの投資判断をつけた。
ソフト企業にとって、AIの脅威は代替ソフトの台頭だけではない。各社のソフトの使い手が人からAIに代わると、収入の目減りや利益率の低下に直面しかねない。従来のような利用人数あたりの課金ではコストを回収できないおそれがあるからだ。
各社は増収増益の傾向が続き、業績の数字だけをみればAIの影響は顕在化していない。ただ市場の成長期待を示す予想PER(株価収益率)は足元で、直近10年で最低に沈んでいる。
SaaS企業に投資する米ファンド、アベニール・グロース・キャピタルのジャレッド・スリーパー氏は「ソフト企業はかねて新型コロナ後の成長鈍化に苦戦していたため、AI登場でリスクが注目されて悲観的な見方が広がった」と指摘する。
各社も手をこまぬいているわけではない。対策の一つが自社ソフトにAI機能の搭載を進めることだ。セールスフォースは営業や顧客支援の分野で人間の作業をAIが代行する「エージェントフォース」に注力している。
新興のAI技術を取り込む動きもある。アドビは25年に動画AIスタートアップの英シンセシアに出資。サービスナウは1月20日に米オープンAIとの提携を発表した。AI時代の生き残りをかけ、今後はソフト企業間の合従連衡も活発になる可能性がある。