カオスドラマX

Gray Traveller / 454

454
わったん 2026/01/04 (日) 19:40:46 >> 453

歩みを重ねるうちに、目的地の気配が濃くなる。
霧の向こう、L社跡地からわずかに外れた街区。
そこには、視認できないにもかかわらず、確かな“存在感”だけが漂っていた。
図書館。
感覚としては、そこに在ると分かる。
だが、到達という概念だけが欠落している。
近づいても、辿り着けない。
都市に生じた歪みの象徴だった。

「……ここに来るまでに、幾度も絡まれましたね……」

折れた翼の巣。
其処は無法地帯を意味しており、指は勿論、その傘下組織やフィクサー協会、他の翼までもが領土を巡り暗躍する。
一介のフィクサーが歩きまわるには、死と隣接した苦痛の空間であった。

「ですが、大多数は刃を隠してくれた」
「少し安心しましたよ」

だが、彼にとっては最早それは試練ですらなかった。
以前であればその存在を確認される度、不届きものによる刃物が彼目掛け飛んできていたが、
今回はただ何故特色が此処にいるのかという疑念の声があがるだけで、戦争の火種は最早煙さえ熾す事はなかった。

「透明の軌跡という肩書きは、其れほどまでに影響を及ぼしているんです」
「貴方のことを語る学校さえありますから」

「ただ方向標に向かって歩んでいるだけなんですけどね」

依頼書の文面を改めて確認する。
セイブが取り出した電子端末に映し出されたマップ。
その目的地と所在地がほぼ同等で有る事を認識する。
目の前の罅割れたコンクリートの塊の内部に、依頼主の目的の品があることを確認した。

「人は誰しも、『これだ』と思う物に向かって歩みはするんです」
「ですが、貴方のように決して折れず、尚且つ向き合いながら歩を進められる人は中々いません」
「それが人格者であるなら、尚更」

首の皮一枚、といった繋がり方の玄関扉は、辛うじて蝶番に繋がっているだけだった。
歩むたびに天井から砂埃や瓦礫の屑が啜り落ち、衣服に纏わりつく。
暗闇にさえ匹敵する程の光の無さに加え、霧による視界の悪さの中、
彼らは思い出の品である『写真』を探していた。

「そうして貴方はいつも決まって無表情で、それでもこう言いたげです」
「『思い出のために生きているだけだ』と」
「……そして、こんな暗闇の中でさえ……」

瓦礫に埋まった箪笥の脇。
視界も定まらない中、ユンフはその隙間に手を伸ばし、額縁を手にする。

「貴方は尚、力強く進み続けている」

「手放しに誉めてくれますね」

「事実じゃないですか」

「曇り空さえ晴らすような太陽と共に時を過ごしてきたんです」
「見えない道は俺には無いから」

写真の明度の邪魔をする埃や汚れを手でそっと払う。
映し出された人々の笑顔が僅かに見えるその額縁の中の存在を見ると、
良かった、と小さく呟き、セイブへと差し出した。

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