カオスドラマX

Gray Traveller / 471

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わったん 2026/01/18 (日) 22:12:39 修正 >> 468

「新個体のカルテです」

ある日差し出された一枚の診断書。

「珍しい新個体だな。ここまで健康部位が限られているのでは保存箇所は少ない」

まだまだ幼いその写真には不釣り合いの重篤患者。

「アベリア、この個体の心身ではせいぜい延命がいいところだ」

小さな体躯に圧し掛かった、多くの代償を背負った若き命。

「儂の延命シーケンスで少しでも長く生きてもらおう」

普段通り保存し、技術として昇華する消耗品。

「……いや……」

そのはずだった。そのはずだったが、俺はその時、天秤に手を添えてしまった。
俺は、押し留める事が出来なかった。研究員としての矜持を。

「……この子の症状であれば、以前保存したアンプルの投与で完治を望めるんじゃないか?」

バカ――医師共の集う白い部屋で、俺は技術の見せ処を提示した。
この病院に於いて、届けられる患者は皆、完治を望めない憐れな存在。
だが、そんな存在達を俺達が魂ごと抽出していった結果、
その存在を救えるかもしれないという妙な希望を抱いた。

「ニゲラの意見は珍しいですね」
「では重篤治癒アンプルによる投与実験として」
「治癒シーケンスを組み立てます」
「こちらの患者の完治を目指し、途中結果を保存していきましょう」

ただの気紛れ。
だが、その意見はあっさり通った。
技術の保管は大切だが、同時に証明も俺達研究員にとって必要な行程だった。
それ故に、俺は届けられた命で実験しようとした。
命を護る実験を。


治癒被検者による疾患消滅リサーチ。
開始された日から、研究員の数人は新個体――そう呼ばれた患者の元でアンプル措置を行っていた。
元々虚弱且つ薄汚い技術の副作用を患っていたからか、アンプルによる投与後の治癒速度は決して著しくはなかった。
だが、俺達の技術の結晶は、彼によって証明される。
そう。命を維持するだけではなく、命を紡ぐ技術。
俺はそんな行為を、決して誉れを持って行っていた訳では無く、
今後金になることを理解していたからこそ、この完治を願っていた。

「……」

病室を覗いてみる。
境界線の上に、横たえられていた彼。
その表情は明るく、都市に似合わない純粋な笑みだった。


また別の日のこと、病室、扉が開いていた。
のぞき見なんて、と思ったが、俺は彼の様子を見たくて眼を挟んだ。

「……」

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相変わらずの笑みを浮かべていた。
それは善良の笑みだった。
都市には存在しない、貴重な笑み。
俺は、この子が別世界から来た人なんかじゃないかって思うぐらいに、
その笑顔がたまらなく尊かった。

「……」

俺も自然と笑みを浮かべたろう。
ここの連中が、必ず彼を治してくれるだろう。
そう、俺は期待に胸を含まらせて、作業に従事した。


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