カオスドラマX

Gray Traveller / 496

496
わったん 2026/02/01 (日) 20:44:59 修正 >> 488

二人の空間に、一輪の花が差し出される。

「……これは……」

ニゲラへと差し出された花。
それは、枯れた花だった。
花弁は色を失い、茎は脆く、
生きていた痕跡だけが、かろうじて形を保っている。

「貴方の嘗ての場所」
「既にあの時、貴方は見舞いに行く選択をしていた」
「悔恨を背負ってでも、その覚悟は本物だったんだ」

――嘗ての地点。
悔恨の痕に残っていた、違和感。

「……そうか……」

乾いた笑みが、ほんの一瞬だけ浮かぶ。
枯れてなお、捨てられず、
意味を与えられないまま残ったもの。
ニゲラは、両手でその花を受け取った。

「……」

花を受け取ったニゲラを見て、ユンフは病室の外へと出ていく。

「……これは……俺だったんだな……」

折れないよう、壊さないよう、
まるで贖罪ではなく、世話をするような手つきで。

「そして、君に伝えたかった、俺の想いであり」
「君に送る、見舞いの言葉」

枯れた花を、花瓶に添えた。

画像1

「≪リクニス≫」

『……』
『……うん……』
『嬉しいよ……ニゲラさん……』

それは、形では分からない。
善良の笑みだった。

霧は既に、病室から消えていた。

通報 ...
  • 497
    わったん 2026/02/01 (日) 20:46:37 >> 496

    病室の外、晴れない霧の中、その重き廊下で会話を酌み交わす。

    「ねじれの根本は理想の自分の発芽」
    「あの姿は、貴方を待つが故に形を成した云わば彼の未来です」
    「……憂鬱に塗れた姿ではありましたが、きっとそれは貴方との思い出が満たされていないが故に発症したもの」

    「……俺とリクニスの時間が思い出として重なっていけば」
    「元の姿に戻れるかもしれない……そういうことか……?」

    「ねじれた人間が本来の姿に戻るには、強い衝撃が最も効果的ではありますが」
    「貴方達の繊細な関係に俺は鋼鉄を振るう気にはなりませんからね」
    「……短い命、とは言ってはいましたが……」
    「どうか、その僅かな時の中でも、思い出を紡いでいってください」

    「…………」
    「……ユンフ……聞きたい事がある……」

    「どうぞ」

    「俺の過去を垣間見た上で、俺とあの子の未来への扉まで、お前は案内してくれたな」
    「……言ってしまえば、俺は且つての仲間を殺した奴だ」
    「そんな奴の肩を取り持って、お前の軌跡は穢されたりしないのか……」

    「復讐の怨嗟に、俺は微塵も興味がありません」
    「同時に、俺は割り切ってもいます」
    「黒か白かで裁かれる都市の流れの中で」
    「俺は常に裁かれずにいる灰色の戦いに身を置いている事を」

    「……」

    「……すいませんね……」
    「貴方の言った通りです。俺の旅路は結末を描いてこそ、軌跡になぞられる」
    「例えどんな結末であったとしても、俺は其処で紡いだ物語を彼女に伝えたいんです」
    「……だから、俺の思うように、そうしたいと思ったから、この物語に手を貸したんです」

    「……お前に聞いたよな……」
    「お前なら、命をどう選ぶか……」
    「お前は俺の立場だったら、リクニスを選ばないと言っただろ」
    「……本当に……そうなのか?」

    「選択には後悔が付き纏うものです」
    「ただ、俺はその過程さえも思い出として紡ぎ、ある人に伝えるため」
    「……どちらも選ぶ事さえ、俺はしたかもしれません」

    「……俺が聞きたいのは……其処にお前の想い人が居たら――」

    「俺はアトリちゃんを選ぶ」

    「……」
    「そこは、一緒なんだな……」

    「都市の人間ではないので」

    軽い一礼を残す。
    ねじれの解決にまで至る事はなかった。
    だが、その心配もない。
    示した方向標に向かって歩み、その先を選択した者が居る。
    なら、後はその先の道を歩むだけ。
    ユンフは霧が立ちこむ廊下を歩む。

    「……」
    「アトリちゃん」
    「おはようと一緒に」
    「お見舞いも、君へ」

    12区の病院に纏わるねじれの記録消去依頼。
    彼はその全てを、鋼鉄を振るう事なく、望まれない形で終える事もなく完遂した。
    その旅路を描こうと足早に、病院を出て行った。