カオスドラマX

Gray Traveller / 518

518
わったん 2026/02/22 (日) 19:56:56 >> 512

街路に沿った麦畑の僅かな外れ。
太陽の日差しを存分に受けながら、分厚い書物に眼を細める老人が居た。
モノクル越しでも分かる、その哲学的な文字を見つめるその様を見て、
彼はある種族に触発された人物である事を察知していた。

「若いの」
「ティダの村はどうかね」

書物に眼を通したまま、付近を通りかかったユンフに言葉を投げかける老人。

「看板通り、希望を連ねた活気のある村です」
「太陽の微笑みを受けた、優しい村」

「そう感じる事が出来るのは、お主が旅を重ねているからであろうな」

パタリと本を閉じ、皺くちゃな顔を彼へと向ける。
その年季は、都市においては珍しくさえもある老人の姿であった。

「若いの。どうだね、少し閑話に付き合っていただけるかな」
「村長に会う前の、気分転換、という奴かの」

「……」
「俺が都市の人間である事は、認識しているんですね」

「あぁ、そして、このティダの村に関する存在であることもまた」
「自ずとわかる」

「……理由をお聞きしても?」

「私が長生きしているからだ」
「何、この現象下における制圧の中で、お主から感じる色の濃い旅路に中てられた」
「……そうだな、こういう問答はどうだ?」
「その旅は、足に纏わり付く身も心も冷え切ってしまいそうな水を掻き分け」
「ただひたすら、何処へ行くとも知れない道を歩むが如く暗闇」
「だが、確かにある。希望の光」
「その光を、お主が抱えている」
「私達、ティダの村の住民が追い求めた種を、お主が持っている」
「そう感じた、そう感じられる程、私は都市で長く生きてきたからだ」

「……」
「どれ程歩き続けたかは分からない」
「水の凍て付く様な冷たささえ分からなくなってしまう程、俺は無感情に歩んだ」
「だが、それは途中までの話」
「俺を照らした太陽は、俺に温かさを教えた」
「その暖かさを以て、自分以外の気配を感じて、旅の疲れさえ愛おしく想い」
「俺は種を蒔いていった」
「歩む先に僅かな希望が見えれば」
「その希望が、俺達の種を育てていってくれるだろうから」

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