カオスドラマX

Gray Traveller / 719

719
わったん 2026/08/16 (日) 23:53:52 >> 716

「これも誰かを模して造られた作品か」

「私は身体派や立体派、ましてや野獣派のような暴力性に富んだ作品は好みません」
「モニュメントに記されるべきはその儚さに美を追求した点であるが故」
「貴方が想像するような猟奇的発想など、忘れ去られた記憶と共にゴミ箱へ投げ捨てました」

「……」

怪訝そうに表情を変える透明の軌跡に、ドルドインは小さく笑ってみせる。

「構いません。悠々たる心情を表現する為に、座る必要はありませんから」
「貴方から感じるインスピレーションは、悲劇の最中に過ぎず」
「それを受け入れるには、立ち止まってなどいられないのでしょうね」

「ユンフの事は何処まで知っている」

「一度対話をしただけです」
「互いの芸術、派生した思想を表現し合う」
「キャンバスに彩った絵具と、描かれた表現に」
「私は知る事の無かった芸術を見出しました」

ドルドインは、遠い記憶を手繰るように天井を仰いだ。
スポットライトの眩光がその瞳を灼いているにもかかわらず、目を細めることはない。
その顔には、どこか狂気を孕みながらも、慈愛に似た柔らかな微笑が浮かんでいた。
やがて、再び透明の軌跡へ向き直る。

「透明の軌跡」
「今宵の芸術は郷愁に浸れぬ哀傷の調べ」
「貴方の今を語る時」
「マエストロ自ら、課題評価をしましょうか」

ドルドインの傍らに置かれていたキャンバスへ、新たな画材が添えられる。
一切の色彩を記していない、真新しい画材。
ドルドインはその画角から身を退き、透明の軌跡を手前へ誘うように視線を遣った。

「……」

透明の軌跡は、ゆっくりと歩み寄る。
眼前に佇むキャンバス。
その白紙は、何も描かれていないが故に、あまりにも饒舌だった。
横からドルドインが、小さな筆を差し出す。
描いてごらん、と促うような、微かな笑み。

「点描派の事はお気になさらず」
「思うがまま、表現を」

透明の軌跡は目を細めながらも、その筆を受け取る。
手元に残った小さな筆。
それを暫し見つめた後、画材に筆を――。

「……」

奔らせることは出来なかった。

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