カオスドラマX

Gray Traveller / 720

720
わったん 2026/08/16 (日) 23:54:52 >> 716

「インテュイション(直感)さえ沸きませんか」

「……アンタたちが表現し合ったそれは」
「記憶があるから出来た事なんだろ」

筆を持った腕を力無くぶら下げ、自傷気味に小さく笑う。
その様子を見たドルドインは、そんな彼の笑みを見ないように目を伏せた。

「現在から派生した過去や未来」
「それらを描くのに必要な事はその人が人たる信念」
「客観視から生まれた評価に怯える事はあれど」
「何も表現出来ない事は、模倣(ミメーシス)さえ叶わぬ事」

「俺には過去がある」
「都市で出来た、横道が――」

「では、それを表現出来ますか」

「――」

「透明の軌跡」
「恐らく貴方は、記憶を喪ってから、新たな思い出を得たはずです」
「それでも其処に描けない事は」
「貴方のカタルシスは根源から異なる事を意味しています」

「どういうことだ」

「美的判断は概念によって完全に証明できるものではありません」
「私が描いた絵を万人に見せた時、その美しさの証明、提示する事は出来ません」
「それでも、私は『この絵を美しい』と胸を張って豪語するのです」
「貴方はその前提に辿り着く事が出来ておらず」
「傷心している」

「……」

「貴方が思い浮かべたその横道というもの」
「其処に派生する感情に、貴方が自ら名前を付けられないというのであれば」
「それは模倣しようとしているに過ぎず、しきれていない事の裏付けにさえなるのです」

「……」

「それもそのはず」
「貴方が本来、思い浮かべ、描きたいであろう事は」
『ユンフ』という絵具があり、『アトリ』という表現がなければ出来ない事なのですから」

残酷な提示を、ドルドインは容赦なくつきつける。
彼が表現したかった過去の線。
その横道には生きた走馬灯があり、それでも自分の未来へと進む気概があった、
だが、それをいざ表現しろと言われた時、
彼はその思想をキャンバスに描く事が出来ずにいた。
その思い出に名前を馳せる事も出来ず、ただ歩んだに過ぎない。
そう言いつけるように、ドルドインは真っ新なキャンバスに手を添える。

「彼は多彩な色の混じったが故、透明と成り得た」
「ですが、貴方は灰色に染まった透明」
「それさえ表現する事を恐れている」

「……」

「もう少しお話をしましょうか」

「何のだ」

「ユンフが描いていた芸術についてです」

通報 ...