カオスドラマX

Gray Traveller / 723

723
わったん 2026/08/23 (日) 19:51:52 >> 722

点と線。
それは、あまりにも単純な対比だった。
点描派にとって、世界は無数の点によって構成される。
細分化され、観測され、配置され、そして一つの像へと統合される。
だが、線は違う。
線には始点と終点がある。
その二つを結ぶために、途中という時間が生まれる。
ユンフが突き付けたものは、まさにそれだった。
過去から現在へ。
そして現在から未来へ。
途切れずに続いていく、一本の線。

「思い出話に華を咲かせながら、自身の芸術が過去にある事を説き」
「そしてその過去の為に残酷な今を歩み抜く」
「その光景を、私達都市の人間に、語り、そして見せてきた」

ドルドインの声が、ほんの僅かに柔らかくなる。

「絶望的な世界観の中でさえ、利他的に生き抜く事を選んだ彼が」
「ただ一人の少女の為に、利己的に生きる事を選んだあの場面」
「えぇ」
「あのエヴォカティブ(喚起的)な芸術は、彼の色だけであり、そして少女の色でもありました」

「……」

ギャラリーには、無音という静寂だけが残った。

「私はその記憶を突き付けられ、彼の芸術の主観に酷く影響されましたよ」
「こんなにも優しく、一途であり、希望溢れる芸術」
「凪いだ風を抱きしめるような、淡い空気を纏った憧憬」
「それを彼は描いてくれたんです」

ドルドインは踵を返し、作品群の一つに手を掛ける。
手つきは異様なほど優しかった。
先程まで作品を撫でていた指先とは違う。
壊れやすいものを扱っているというより、
そこに宿る何かを、決して傷つけてはならないと理解している者の手つきだった。
額縁に嵌ったその画材を手にとり、透明の軌跡の元へと戻って差し出した。
其処に映されていた絵画は、歪な線で、着色も定かではなく、
技巧だけを評価するのであれば、とても上手いとは言えない。
だが、その一枚の絵を見て、透明の軌跡は

「――」

ただ、ただ見る事しか出来ずにいた。

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