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「クソ」
「俺自身、どうしたいんだろうな」
「都市に存在する以上、都市で生きて往くことは当たり前だ」
「だが、俺の前任はそうじゃなかった」
「都市は『思い出』への通過点に過ぎない」
「見ている場所が違う」
「……故郷ってなんだ」
「故郷の連中とは仲良かったのか」
「何故そいつらを護ろうと思った」
「その上で、何故利己的に生きる決断が出来た」
「その決断をさせた子は」
「一体、どんな子だったんだ」
瞼の裏に現れたのは、大切に保管された画材に描かれた一人の少女の絵。
彼自身の記憶には存在しない。
それでも、その姿だけは妙に鮮明だった。
柔らかな輪郭。橙にも輝く太陽のような笑顔。
これまで色彩に乏しかった彼の視界へ、初めて強烈な色を差し込んだ存在。
「……」
蝋燭の炎が揺れた。
その僅かな光が、透明の軌跡の瞳へ映り込む。
虚ろにも見える瞳だった。
けれど、その奥には先ほどまで存在しなかった微かな光があった。
視線の先にあるのは、空白の画材。
「……」
「俺の感情は俺のものだ」
「それ故に、俺は都市で描かれた軌跡に抗いたくて」
「数多の人間との視線を遮ってきた」
「俺でない俺を見ているその視線」
「……その視線を描いてきたのは間違いなくユンフであり」
「そのユンフを構成したのは……」
「君なんだろうな」
徐に手を伸ばし、筆を奔らせる。
筆先が、画用紙の上を静かに滑っていく。
淡い色が細い線となって残される。
手首はほとんど動かず、指先だけが微細な調整を繰り返していた。
力を込めれば濃く、僅かに緩めれば掠れる。そのわずかな力加減だけで、線には異なる表情が生まれていく。
その精錬にも思える程、細やかな動きで、描き手の意思を紙面へと紡いでいく。
誰かから教えられたわけでもなく、
ユンフの記憶の真似事をしている訳でもない。
ただ、自身の意思で、筆を動かしていった。
「……」
溶け落ちた蝋は燭台の縁を伝い、小さな炎は頼りなく揺れながら、それでも暗闇を退けるには十分な光を投げかけていた。
其処に差し込まれた仮初の芸術。