カオスドラマX

Gray Traveller / 731

731
わったん 2026/08/30 (日) 19:02:34 >> 728

長く続いた思索に疲れ果てたように、透明の軌跡は自傷的な笑みを浮かべた。
それは笑顔と呼ぶにはあまりにも力がなく、己の空白を嘲るためだけに残された、乾いた表情だった。
椅子の背凭れへ身体を預ける。
支える力すら惜しむように、全身の重みをそのまま背後へ委ね、首を僅かに傾けた。
視線だけが、机の上に残された一枚の絵画へ向けられる。

「……この子は」
「今も笑っているのだろうか」
「お前を信じ待っているのだろうか」

描かれた少女の笑みは変わらない。
透明の軌跡は、その表情を見つめながら、先ほど浮かべた口角をそのまま維持する。
笑っているのか。
諦めているのか。
あるいは、そのどちらでもないのか。
自分自身でさえ、もう判別出来なかった。

「いつか、教えてくれるか」
「お前が見てきた笑顔の暖かさを」
「お前が護りたかった鼓動の尊さを」

自分にはないもの。
自分が知らないもの。
けれど、かつてユンフという人間が確かに知っていたもの。
その温度を、いつか知りたいと思った。
それが記憶なのか、感情なのか、それともただの憧憬なのか。
今の彼には、まだ名前を付けることすら出来ない。
ただ一つだけ確かなことがある。
この絵を描いたのはユンフではない。
この感情を抱いたのも、ユンフではない。
少なくとも、そうであろうとしている。
それでも彼は、ユンフの延長線上にいる。
ならば、その線の先に何があるのかを確かめることくらいは許されるのだろうか。
そんな答えのない問いを胸に残したまま、透明の軌跡は疲れ切ったように瞼を閉じた。
身体から力が抜け、椅子へ預けたままの姿勢が僅かに崩れる。
やがて、呼吸がゆっくりと一定の間隔へ変わっていき、眠りに堕ちた。
蝋燭に揺らめく光の中、少女の絵画の笑みは変わらず暖かさを放っていた。

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