カオスドラマX

Gray Traveller / 735

735
わったん 2026/10/05 (月) 22:10:54 >> 732

「あ、あぁ……!あああああ!!!!」

液体越しでも伝わる悲痛。
その叫びは、決して普通のものではなかったというのに、
周囲に居た研究員は其れに感情を投げかける事は無く、
ただ作業に従事する。

『いいえ、おばあさま。私は双六なんてしたくなかった』
『前にも言いましたよね?それは過去ではなく未来に繋がるものだって』
『そうして積み重ねた不満を黒く染め上げた大地へと捨てて』
『生き残るために持ってきたパンを千切って埋めた』
『ちょうちょはくねりながら右目と握手して』
『あ!今夜会いに行くからね』
『ボーボー!泣き叫ぶ火事と一日分の栄養が!!!』
『あああああああああああああ!!!!!』

被検体の支離滅裂な叫びを目にして、透明の軌跡は瞳を凝縮させる。
眼前で行われている実験は、都市では有り触れた技術の犠牲に過ぎない命。
その命の価値が底辺にまで落ち、そして其れに対する尊敬の念が一切払われない異質な空間。
被検体が正気を失っていく様が、彼の瞳に映り込む。
幾多用にも代わり往く負の感情を持った表情を映し続け、最後に見たのは

『…………』
『…………私が…………』
『あまりにも多すぎる』

培養液の中で霧散していく被験者の無表情であった。

パリンッ!

カプセルは爆ぜ、中に入っていた被検者の全身には硝子の先端のような破片が亀裂を帯びるように突き出ており、
それは見るからに生きている者の姿ではなかった。

ブー、ブー、ブー

エラー音が響き渡る。
被検体の様子をカルテに書き込んでいた研究者はこちらを見上げ、首を左右に振る。
アセアはその様子を受け、『はぁ』とため息を分かりやすくついた。

「屈折率の設定に誤りは無かった」
「3点強度に上げたくらいであり、亀裂は最大で30」
「破損するには些か脆すぎた生地であった」

「……アイツはどうなるんだよ」

「どうもなにも」
「実験に失敗したということは、そういう事であろう」
「実験体が粉々となった」
「硝子が見せる世界に耐えられず、本体は幾重にも襲いかかる平行世界の人格の重圧に耐えられず」
「あのように圧死するのだ」

舌打ち。
透明の軌跡はあからさまな嫌悪をアセアと向ける。

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