- Gray Traveller
- 732
わったん
58c5234994
2026/10/05 (月) 22:09:20
硝子技術
―L社 02支部―
金属製の煌めきを放っている台座が一つ。
そのシルエットは依然として変わらず、使用者の存在を待つかのように鎮座していた。
「エラディア……」
透明の軌跡が降り立つはツール型幻想体が鎮座する収容室。
彼は仮宿で得た情報を基に、L社の支部に己の軌跡を探しにきていた。
「観測記録によれば、一度目はN社内部」
「二度目はL社内部に転送」
「転送先は都市内部に限定されており、『感情』に反応して」
「使用者の『疑問』に応えるかのように光を放つ……か」
嘗てユンフが辿った軌跡を、改めて確認する。
そのツールとして存在していた幻想体と睨み合いをし、
彼は手元の資料を角の机へと放り投げる。
「『疑問』ってのは、起源がなけりゃ発生しない」
「恐らくアイツは、自身が都市に誘われた理由や、故郷について思い浮かべたんだろう」
「……俺に使えんのか、これ」
立入禁止のテープを超え、台座の前まで身体を前進させる。
特に反応は無く、「やっぱりか」とため息をつくように、
透明の軌跡はエラディアを真上からゴツンと叩く。
「皮肉なもんだな」
「……てか、折れた翼の特異点が何で野放しになってんだよ」
「こういう金目になるもんは普通その辺の組織とかが挙って回収するもんだが」
「……はぁ……あれか」
「自ら特異点の技術の犠牲になる奴なんざいねぇってことか」
目を伏せ、呆れたように一息つく。
そうしてその場から離れようとした時。
ピカッ……
彼を引き留めるように、エラディアは光を放った。
通報 ...
>>
最新トピック
755
5 日前
Gray Traveller 5 日前
0
2 ヶ月前
マシェリ・バスト・ダイ 2 ヶ月前
25
2 ヶ月前
双眸 ~紺碧の哀/紅蓮の愛~ アキラ√ 2 ヶ月前
31
6 ヶ月前
にしまい! 6 ヶ月前
55
9 ヶ月前
双眸 ~紺碧の哀/紅蓮の愛~(※無印併用スレ) 9 ヶ月前
2
10 ヶ月前
月の名を継いだのなら 10 ヶ月前
45
1 年前
闇の女子旅 -森林編- 1 年前
5
1 年前
ソードオフ・ポップ・ロック・メモリー 1 年前
98
1 年前
CDトースターズ カオスジェネレーション:白の時空 1 年前
8
1 年前
忘却あれ。 1 年前
31
1 年前
てすとの名は 1 年前
18
1 年前
Voyage 1 年前
4
1 年前
Café -Deux Noirs- 1 年前
2
2 年前
隙間録:たったひとりの最終決戦 2 年前
20
2 年前
師匠のグルメ 2 年前
40
2 年前
奇名組スレ 2 年前
34
2 年前
フリードラマ用トピック 2 年前
49
2 年前
LAST RESORT #5 【 Vs.ティネル 】 2 年前
31
2 年前
LAST RESORT #5 【 Vs.ゼフィリーヌ 】 2 年前
47
2 年前
LAST RESORT #5 【 Vs.第0護衛兵 】 2 年前
115
2 年前
LAST RESORT #5 【 Vs.マールーシャ 】 2 年前
48
2 年前
僕らの物語・第7章・Vs.魚雷ガール 2 年前
33
2 年前
LAST RESORT #5 【 Vs.サナトリー 】 2 年前
1
2 年前
AIさん誕生秘話 2 年前
43
2 年前
-Pathetic Clown's Fate- 2 年前
73
2 年前
僕らの物語・第7章・Vs.マカオ&ジョマ 2 年前
26
2 年前
僕らの物語・第7章・Vs.アルフレッド 2 年前
18
2 年前
僕らの物語・第7章・Vs.グワンド 2 年前
12
2 年前
僕らの物語・第7章・Vs.黒岩満 2 年前
89
3 年前
勇者王の試練 -失われし聖剣を求めて- 3 年前
56
3 年前
僕らの物語・第7章・Vs.ムスカ 3 年前
9
3 年前
ベンチ① 3 年前
24
3 年前
僕らの物語・第7章・Vs.シャルロッテ・クールホーン 3 年前
10
3 年前
-深淵- 668層 3 年前
23
3 年前
僕らの物語・第7章・Vs.ルナ・ドーパント 3 年前
61
3 年前
らすとりぞーと学園 3 年前
46
3 年前
ワイズ大爆笑 3 年前
15
4 年前
"K" -奴の名は- "Chapter 3" 4 年前
11
4 年前
罪業の刻印 -ブリーフィング- 4 年前
7
4 年前
ダイ・コントーンvsゼローグ 模擬戦 4 年前
7
4 年前
【日常】某国某所喫茶店【野良枠】 4 年前
30
4 年前
"K" -奴の名は- 4 年前
―???―
無数に広がるカプセル状の培養技術の装置。
如何にも人体実験を行うような空間。
その狭間に、透明の軌跡は降り立った。
「――転送されたのか?」
「何に反応して……」
「……」
硝子越しに見下ろしたその風景、そしてその光景。
複数の科学者が眠りに堕ちた被検体を前にして、バインダーに固定された資料に筆を奔らせる。
被検体は目を見開き、ゴボゴボと培養液の中で呼吸をしていた。
「おや、廊下の痕跡は見当たらなかったが」
「稀なる客、其れも特色が此処に到達するのは聊か不可解ではあるな」
薄暗い研究室から、声がかかる。
研究員は両手をあげながら、「敵意は無い」と透明の軌跡へと示した。
その気だるげで余裕のある視線は、髪に隠れた右目からも分かるほど、
『野望』というものからかけ離れた怠惰が存在していた。
「どうか俺を捕まえんとする不必要な時間の浪費はしないで欲しい」
「俺はただ拉致され、監禁されし身故に」
「残りの8人の朋さえも忘れ得る時を過ごした憐れな研究員だ」
「……アンタは……」
「アセアという」
「その睨視を此方に突きつけるのはやめてはくれないか」
「過日の時、旧朋でさえ俺をそのような眼で見る事は無かった」
気だるげでありながら、飄々とした表情。
口角を僅かに上げたまま、アセアは透明の軌跡からやや離れた位置の窓に歩んだ。
そうして並列となり、研究所の被検体達へとその小さな瞳を投げやった。
「併して透明の軌跡」
「そなたは伝聞と異なり、聊か怠惰に満ちし風貌だな」
「何故此処に姿を現したのかもわからんが」
「元来の透明の軌跡という概念であれば、この地に足を踏み入れる事は」
「『方向標』なる帰郷の頁に泥を塗るようなもの」
「……アンタもアイツを知っているのか」
「狂逸なことを聞いてくれるな」
「俺個人とそなたの関わりは微塵も無ければ」
「どの世界に於いても、交差する可能性は絶無に等しい」
「どの世界?」
「……ふむ」
「都市の導きは、時に不可解を形として残す」
「今まさに、そなたが置かれる状況に」
「俺を巻き込んでいるこの空間」
「……透明の軌跡……その個体である『ユンフ』……」
「だが、眼前に在りしそなたの姿は、何処か異なる」
「併して、今こうしているのは確かに特色たるそなたの姿」
「……」
「……なるほど」
アセアは窓の下で行われる実験を眺めながら、その気だるげな目元をより緩めた。
そうして透明の軌跡へと視線を送り直し、付近の真っ白なテーブルに資料を添える。
「これは恐らく、俺の失敗作なのだろうな」
「透明の軌跡」
「……」
「結論から話すのは性急に駆け出す衝動に打ち勝てないが故」
「俺は人より忙しない身ではあるが」
「少しそなたに俺の過程を伝播させなくてはならぬ責任者」
アセアは窓ガラスの向こう側を指さす。
透明の軌跡もまた、その指先へと視線を向けた。
其処に在ったのは、研究者が一人、そして培養液に浸かった被検体が一人。
「屈折率の出力値を既定に戻した上で、作動しろ」
表情を変えず、アセアは口を開く。
無線機がある訳ではなかったが、下に居た研究員は彼の指示通りに機械を操作し始める。
培養液の中で振動が強まる。
内部に居る被検体は、みるみるうちに表情を変え、目まぐるしい程に形相を様々に変えた。
「あ、あぁ……!あああああ!!!!」
液体越しでも伝わる悲痛。
その叫びは、決して普通のものではなかったというのに、
周囲に居た研究員は其れに感情を投げかける事は無く、
ただ作業に従事する。
『いいえ、おばあさま。私は双六なんてしたくなかった』
『前にも言いましたよね?それは過去ではなく未来に繋がるものだって』
『そうして積み重ねた不満を黒く染め上げた大地へと捨てて』
『生き残るために持ってきたパンを千切って埋めた』
『ちょうちょはくねりながら右目と握手して』
『あ!今夜会いに行くからね』
『ボーボー!泣き叫ぶ火事と一日分の栄養が!!!』
『あああああああああああああ!!!!!』
被検体の支離滅裂な叫びを目にして、透明の軌跡は瞳を凝縮させる。
眼前で行われている実験は、都市では有り触れた技術の犠牲に過ぎない命。
その命の価値が底辺にまで落ち、そして其れに対する尊敬の念が一切払われない異質な空間。
被検体が正気を失っていく様が、彼の瞳に映り込む。
幾多用にも代わり往く負の感情を持った表情を映し続け、最後に見たのは
『…………』
『…………私が…………』
『あまりにも多すぎる』
培養液の中で霧散していく被験者の無表情であった。
パリンッ!
カプセルは爆ぜ、中に入っていた被検者の全身には硝子の先端のような破片が亀裂を帯びるように突き出ており、
それは見るからに生きている者の姿ではなかった。
ブー、ブー、ブー
エラー音が響き渡る。
被検体の様子をカルテに書き込んでいた研究者はこちらを見上げ、首を左右に振る。
アセアはその様子を受け、『はぁ』とため息を分かりやすくついた。
「屈折率の設定に誤りは無かった」
「3点強度に上げたくらいであり、亀裂は最大で30」
「破損するには些か脆すぎた生地であった」
「……アイツはどうなるんだよ」
「どうもなにも」
「実験に失敗したということは、そういう事であろう」
「実験体が粉々となった」
「硝子が見せる世界に耐えられず、本体は幾重にも襲いかかる平行世界の人格の重圧に耐えられず」
「あのように圧死するのだ」
舌打ち。
透明の軌跡はあからさまな嫌悪をアセアと向ける。
「俺が貴重な生地の一つを使ってまでそなたにコレを見せたのは」
「俺の軌跡の中に、そなたが居る事を知って欲しかったからだ」
「念無しに思うのは勝手ではあるが、今にも振り翳しそうなその腕の力を収めてくれ」
「……」
「さて、透明の軌跡」
「研究者とは、一点の技術に対して純粋よりも真摯であらねばならない」
「俺が今、恋心さえ放り投げて熱心と言える感情を抽出したこの技術」
「『ガラス』だ」
アセアはテーブルに添えてあった硝子の破片を手に取る。
目元まで持ち上げると、自然と反射が透明の軌跡を映す。
其処に映った自身の表情は、決して愉快なものではなかった。
「其方が今、目前とした反射」
「其処は決して科学的領域ではなく、『可能性』が映り込んだ別次元の世界」
「今、アンタが手に持っているものに映ってんのは俺だ」
「意味も定義されていないただの硝子だ」
「其処に映りし存在の、別の可能性を投影する」
「……別世界の俺を、此処に呼ぶ……ということか」
「否」
「其方という生地に投影させる」
破片を投げ捨てるように机へとスライドさせる。
アセアは再び研究室を見るよう、首で促した。
先程絶命した被検体。
其処から伸びる亀裂の数々。
流れる血はまだ鮮明で、先ほどまで生きていたことが用意に分かった。
「あの生地は、硝子の映りし先となった素体」
「数多の可能性をあの生地へと投影させるのだ」
「そうだな、今思いついた文をそのまま述べるのであれば」
「『人格』を被せた、というべきか」
「……人格……」
「あの生地に投影させた人格は、一つではない」
「硝子に生じた亀裂の数だけ、あの生地には経験や記憶が幾重にも具現化する」
「結果、数多の硝子の破片に映りし自分に耐え切れず、あのように破裂した」
「……」
「名の言葉を借りよう」
「其方の今の形は、透明の軌跡たる『ユンフ』の身体。それが生地」
「そして、今その身体の精神支配をしているのが、其方だ」
「どういう」
「そう断言できるのは、俺が施した被検体の視線の先」
「見えた硝子の断片」
「其処に映ったのは、今の其方のような表情をした都市の人間の一人」
「そういう顔をする輩は、都市には少なく」
「印象的であるが故」
エラディアは、自身が思い浮かんだ事象の根源へと誘う。
「……」
目前に示された『人格』を被せられた『生地』
何かが、重なり合う。
「都市の技術は都市の人間の為に邁進するもの」
「例えどのような被検体であっても、いずれは技術として昇華され」
「数在る人生の懐で輝くものだ」
「その被検体の内、俺が担当していた生地が一つ、破裂する事なく此処に留まった」
「だが、意識は無く、それは生きているとは言えないもの」
「……」
「何やら『次元』に干渉する能力が作用したようでな」
「俺は非科学的な未来分析図に眼を置く程、戯れ心に富んだ人間ではない故」
「そのような事象に耳を傾ける事はしなかったが」
「どうやら其方の存在がそれを証明したらしい」
「……」
ユンフという身体。
其処に根差す精神。
異なる人格。
それはつまり、自身が身体の宿主ではない誰かである事。
何処までも、他者である事。
それを突き付けられる。
「透明の軌跡」
「その身体は生地だ」
「そして、その生地に被せられた『人格』」
「俺のガラス技術により、本来投影されるはずだった生地の『誰か』」
「それが、今こうして言の葉を紡ぐ其方なのだろう」
「……」
握り拳に、怒りが込められる。
だが、その矛先は決してアセアに向くことは無く、
消化するように力を緩める。
「其方の基となる人物は分かりようがない」
「無作為に選ばれた生地、そしてその投影先を特定する事など」
「海に放り投げられた一粒の砂を、拾い上げる事と同義故」
「……俺は……」
「延長線ですらないのか……」
「言葉の裏を探るような温順さなど持ち合わせてはいないが」
「新たな人生を歩めるのだ」
「それもその強靭な身体を以てして、都市を自由に歩める」
「透明の軌跡という媒体は不自由と言った言葉は不釣り合いであり」
「正しく翼を得た鳥が如く」
「有象無象に過ぎない人々が羨む事であるというのに」
「其方は何故そのように沈鬱たる表情を取る」
「……」
「ただ、『ユンフ』だったかもしれない」
「その憧れさえ、もう持てない」
「ふむ」
「不可解ではあるが、なるほど」
「其方がこれまで歩んだ道に」
「その軌跡の延長線である理由付けがされた」
「人の感情にケチを付ける程、高尚たる存在に成り上がったつもりもないが」
「他者を存在理由とした脆い人種か」
「今、アンタをぶん殴っても」
「きっと、何もよくならねぇんだろうな」
「元の生地となった其方は、決して温厚とは言えない人間であったが」
「こうも人は変わり往く事が出来るのか」
「それが徒労とならない事を祈ろう」
「……さて、俺は多忙の身であるが故、定時退勤は稀なのだ」
「答えは、得たのであろう」
「……アンタ、エラディアを知ってんのか?」
「さて、な」
「次元を司る人間の言葉をなんとなしに覚えていただけ」
「其処に当てはまる人物は、其方の他に居なかった」
「……」
「不可解な事を理解する必要は無い」
「其方は、俺が生み出してしまった愚かな人間の一人」
「いや、その言い方だと禁忌に触れてしまうか」
「卑下されし、人格の一つ」
「故にこそ、その生を楽しむことが、最も其方の為になろう」
アセアはそうして研究室の一室から去っていった。
残された透明の軌跡は、ただ硝子越しに研究室に聳える被検体のカプセルを眺め
「……」
ただ納得の行かない、憂鬱な表情で目を伏せるばかりであった。
「引っ張られた人格」
「其処に張り合わされた、ユンフの身体」
「……は……」
「クソ……」
「互いに……被害者なのかよ……」
光が包む。
そうして研究室には、誰一人として居なくなってしまった。