カオスドラマX

Gray Traveller / 748

748
わったん 2026/10/18 (日) 20:27:03 >> 744

廃墟には、音がなかった。
崩れ落ちた天井の向こうから夜の冷気が流れ込み、割れた窓枠が風に軋んでいる。
異変が起きたとすれば、其処には無数の紙が舞っていた事。
二枚、三枚。まるで見えない何かに引かれるように次々と宙へ昇っていく。
そうして紙がいくつも舞う中、異形に身を捻じった精神は浮かび上がる。
人間の形を借りようとして、途中で諦めたような姿。
灰色の発光体が幾重にも重なり、それらが辛うじて「身体」という形を保っている。

「……成っちまったか」

紫の涙は妖艶にも微笑みながら、その巨体を見上げた。
歳月を重ねた顔には幾筋もの皺が刻まれていたが、その眼差しだけは老いを知らなかった。

「無数の物語を持った者の身体を借りた者が行きつくのは、自身の物語の形成」
「小僧、アンタは憧れの側面があったからこそ」
「そんな未練がましい姿になっちまったんだね」

幾重にも浮遊する本を横目に、紫の涙は腰に位置する柄へと掌を乗せる。
頁が舞う世界の中、紫の涙は決してそれらを拾う事は無く、
ただ目の前のねじれに視線を合わせ続ける。

『――』

残骸は、最早思い出を求める群れとなり、
形無き形を彩ってしまった。

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  • 749
    わったん 2026/10/18 (日) 20:28:45 >> 748



    当該文章は12区巣内隔離地域で起きた情報を整理したものである。

    特徴――
    『透明の軌跡』を素体としたねじれが発生。
    全身は灰白色の発光体と半透明の構造物によって形成されており、周囲の光量や精神状態によって、その輪郭は僅かに揺らぐ。
    皮膚、筋肉、骨格といった生物学的組織は確認されていない。
    人間の表情を構成する器官は一切存在せず、頭部そのものが無機質な灰色の発光構造として形成されている。
    また、複数の本が常時付着及び浮遊しており、
    古びた冊子、記録帳、手帳に類似しているが、いずれも通常の書物としての用途を果たしているとは考えにくい。
    4つの腕には筆、キャンバス、本が握られており、残り一つの手は常に何かを探し求めているような仕草をする。
    中央に位置する空洞にはガンブレードが貫かれており、特色が描いてきた軌跡を示すかのように残光が揺らめている。

    事件規模――
    出現時、『紫の涙』との交戦が確認された。
    紫の涙の撤退後、裏路地への出現を確認。
    一部の街を機能停止にした後、12区内の薬指ギャラリーを崩壊させたのち、22区へと移動。
    『里帰り』の被害地域であるエル村、ソル村を崩壊させ、
    現時点で其処で『横道』を作る発言を残している。
    巣を渡り歩く能力を持ち、特色を押し退ける、5本指の1つの拠点を崩壊させるなど、
    その被害状況は多岐に渡る。
    被害者そのものは組織を中心としたものではあるが、
    今後の被害規模を想定する限り、その最大数は甘く見込む事はできない。
    ねじれた本体が『透明の軌跡』である事を考慮し、
    当事件は都市の星級災害であることを断定する。
    当個体は『透明の軌跡』から派生したものあり、
    同時にその特色を蔑む行為に及んでもいるため、同名での呼称はしない。
    よって、このねじれの名称は
    『灰色の旅人』とする。