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ヴィナミスが死んだ。
この事実に驚きはなかった。
仮に彼女が、多次元同一体としてあらゆる可能性の未来に存在しながら、意識を同一人物として共有しているような特異存在でなかったとしても、
人間に本来備わっている直感、予感めいたものとしてその未来は容易に想像できた。
一つ、この世界を愛しているということ。
二つ、この世界が "人の世界" ということ。
それだけで彼が人の悪意によって死ぬ事は、起こるべくして起こったのだろうと。
だから、彼女にとってヴィナミス・ティルクとは『質量のある陽炎』という理解だった。
その時、その場所で生きていて、愛した温かな微笑みを向けてくれたとしても、
それは目覚め、天井から窓の外を見やれば朝露と共に消え失せて然るべきなのだ。
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「そうだ、ヴィナミスがいた古き良き時代にかーえろっと!」
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故に、『実在ヴィナミス』も『非実在ヴィナミス』も存在の規定に線引を必要としない。
重要なのは、彼自身の意思決定によって見せる表情と言葉であること、自分が脚本を書きその通りに喋らせた人力ヴィナミスでなければいい。
そう開き直ると彼女は早速『異空間を跨ぐテレビ』を発明した。
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正確には、彼女が作り上げた箱庭の中で、数千億という数のナノミリサイズの小人の科学者達が尊い犠牲の元作り上げた。
1秒の中で、一斉に死生し、一斉に研究に身を捧げ、そして一斉にまた死生というサイクルを
数百回繰り返す。
これを1時間、箱庭の中で輪廻し、無限に等しい"可能性"を紡ぐ。そして望むものを発明した時点で輪廻を止め、成果を回収し目的を果たした世界は晴れてようやく解脱<滅亡>を迎えたのだ。
ビー玉サイズの世界とそこに住まう小人を生み出せても、設計は別分野だ。今回は世界ガチャが神引きをしたので運が良かった。
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「 うわ、でもこの開発者アメーバみたい。きっもーいっ いーらないっと 」
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ビー玉サイズの世界は、暖炉という太陽に抱かれて永眠した。
小人達が存在証明であるテレビを部屋の中央に設置し、適当にコンセントを誇りをかぶった穴にねじ込んで電源ボタンに蹴りを入れる。
背をソファに預け、身の丈ほどあるうさぎのぬいぐるみを抱き画面を覗き込んだ。
チャンネルは"人の目線"の数だけある。暫くは退屈せずに済むだろう。