カオスドラマX

忘却あれ。 / 1

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 私は蛾
 そう、我は蛾なのである、蛾だけに。
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 我という認識は重要でない虫けら一匹が、出力できない言葉で思考できるようになったのはつい2025年前。
 ある日、ひらひらと当てもなく街頭の周りを彷徨っていた時の出来事。
 帳を迎える前に世界が"閉じて"しまった。
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 黒一色、夜以上の暗闇がこの世にあるなどと虫けらたる我は知らななんだ。
 うろうろ、うろうろ、光を求め狼狽し続ける事……恐らく100年程。
 その間は疲れも空腹も感ぜられず、100年の始まりから終わりまで、
ただ光を求めて羽ばたいていたという記憶のみを頼りに黒の中を彷徨いた。
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 そんな折、せいぜい一分のフライトを終えた程度の感慨しかない程度の朝焼けが差し込んできた。
 正確には、視界を閉ざしていいた黒が開けたのだった。
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 黒と黒の間、光が差し込む隙間から開くほど見た霊長類の眼が二つ瞬いて、
素っ頓狂な悲鳴を上げる手段もなく羽を無様に振り回す我を眺めていた。
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「おやおや、取り残されていたのですね。」
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 少女は意外そうに目を丸めながらも、指を狭間に差し込んで光を広げ、我を黒の外へつまみ出してみせた。
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 より高く羽ばたいた我が目にしたのは、視界を覆い尽くさんばかりの"活字の成る木"だった。
 材質はオーク材、四角く規則的に切り出されたそれに囲われるのは"本"という、
無数の活字を記録媒体とする、人を人へ繋ぎ止めるための、留まり続ける音達。
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「なんじゃぁこりゃぁ」
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 その時我は無自覚にも言葉を発していた。
 そのようにありたいと強く望んだわけでもないのに、人のように。
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 この『他の何物でもない図書館』で、世界の断片となった我は産声を上げた。
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