一人の、焼けた肌の男だった。その目が私を捉えて四肢が反応するよりも速く、
その喉に、ナイフを深々と突き刺す。
刺さった刃を捩じり込み、男の足を払い、体勢を崩して路地へと引きずり込む。
視界の悪い中、一瞬でここまでの動作に成功した。誰にも見られてはいないだろう。
せめてもの抵抗か、バタバタと四肢を暴れさせるその男と目を合わせ
……男の眼球があらぬ方向を向き、四肢が動かなくなるまでの、そのほんの僅かな時間を見届け、
その喉からナイフを引き抜き、ついでに男の体で刀身を軽く拭く。
「ほら、まず一人だ。仕事とあと……色々?教えてくれるんだって?頼むよ。ラトニカさんよ」
先程まで私の後ろに着いて来ていた…今は私と一緒に男の顔を覗き込んでいる、彼女…ラトニカに向かって私はそう言う。
「おお……思ったよりずっと手際が良いですねえ、本職は運転手で、こういうのは専門じゃあないとお聞きしたんですけど……」
どうやら彼女にとって、さっきの動きの評価は悪くはないらしい。
「足の払い方と言い、ちゃんと動き方が頭に入ってます、でも他にも良いやり方を知ってるので……そうですねえ」
少しだけ考え込んだ様子の後、「そうだ」と何か閃いた様で、ラトニカが続ける。
「じゃあ、次は私が片付けましょうか。私が先導するのでちゃんと付いてきて、あとちゃんと見ててくださいね。一回で分からなかったら何回か見せますし、質問があれば聞いてくださいね」
まるでアルバイトの新人研修かと勘違いするような、
相変わらず間延びした軽い口調と胡散臭い笑顔を見せて、ラトニカが返してくる。
緊張感の欠片もない、表情と声。どこか無邪気にすら感じるそれと、
私の手元で糞の袋と化した男の対比に、気味の悪さを覚える。
……そう、私は今、このラトニカという女に殺し方と戦い方を習っている形になる。
火遊びの加減を間違えてギャングに拉致され、売春宿に叩き込まれそうになっている、
そんな哀れな”いいところ”の娘を連れ戻し、
加えて、可能な限りギャング達を殺して回るという厄介な仕事を”研修場”として、だ。
……こうなった切欠、それは……20時間程前に遡る。