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「……ちょっと待ってくれ、ソコル達と…イョアン兄弟まで殺されたって?後は私と…知らねえ女一人だけ…?」
「さっき言った通り。南国の道路の真ん中で車が爆発、残骸からソコルと他4名の死体が上がった。こいつらについてはそれで終わり。」
「それと、”知らねえ女”って言い方は良くないわねぇ、この私が態々使えるのを見繕ってやったのよ?”あの”マイテイの生き残りを」
広めの間取りに、シンプルながら質の良さを感じる調度品が揃えられた一室。
突然の仕事仲間の訃報を耳にし、呆然とする私の前で、目の前の女は事も無げに言葉を紡ぐ。
屈強な男を側に立たせて堂々とベッドに腰掛けた、
右目を眼帯で覆った、化けた狐の様に冷たくも端正な容姿のその女……
ギャレット・ファミリーの大幹部たるヴァリーレが、長い赤髪を揺らし、
右目が眼帯で覆われているものの、残ったもう一つの眼で私を見つめながら、へらへらと笑う。
「ここでの実績も数としては少ないけれど、かなり腕は立つのは保証するわ。で、これ以上何を求める?女二人でクズ共相手に仕事に行くのは寂しい?」
まるでトラブルにもならないとでも言いたげに、私の前でさらに言葉が続く。
「腕の立つ奴が居れば簡単な事でしょう?北の田舎マフィア共がうちのシマで”いいとこ”のお嬢様を拉致して、遥々地の国まで連れて行きやがった」
ヴァリーレが指先をその方向へと向け、「だから」と続ける。
「そいつらの詰めてる拠点からお嬢様を助け出して、ついでに出来るだけ連中を殺してくれ…ってだけ。短くて簡単な良い仕事じゃない」
寂しいというか、それ以前の問題だ。私をなんだと思っているのか。
大勢の人間と殺し合えと言われているのに、信頼できる5人が顔も知らない1人になる。
更に私の専門は運転手。戦闘の腕については、残念ながら専門家には遠く及ばない。
とは言え、目の前の相手は中堅とはいえ老舗マフィアの大幹部。
私の事情も良く理解している筈の相手にそこまで正直にも言えない。
先程口から少し漏れたが。
「……いや、あんたが言うんなら間違いないんだろう。さっきはちょっとビックリしただけだ。で、この女は今どこに居るんだ?なんなら今からでも出発しなきゃならない、急ぎの仕事なんだろ?」
携帯電話に送信された、囚われのお姫様の画像データを指差しながら眼前の依頼主に向けて聞き返す。
一昔前は、全て写真を渡していたのだろうか……そう、下らない考えが頭に過る。無意識下の現実逃避だろうか。
「急いでるよ。ウチのシマで薬を捌くような連中なんだ、カタギのお嬢様拉致った後何するかなんて、悪い方に簡単に想像が付く。ああ、あと紹介した女なら……ずっとそこに居るよ」
ヴァリーレが事もなげに言うと、私の後ろを軽く指差す。
まさかと思って振り向くと、如何にも陰気で無口そうな印象の、前は目が隠れ、後ろは背中まで伸びた長い髪の女が直ぐ後ろに立っていた。
……この部屋に入って来た時には、確かに居なかった筈。
ドアを開ける音も、足音も何も聞こえなかった。
何も認識できていないまま背後を取られていた事実に、怖気が走る。
この女が私に敵意を持っていたら?考えただけで、背筋が冷える感覚がする。
私の動揺を知ってか知らずか、その女が口を開く。
「ご紹介に預かりましたぁ、マイテイ人のラトニカ・フェルミと申しますぅ……もしかして殺しはあんまり得意じゃないんですか?でしたら教えてあげられますよぉ」
へらへらと笑顔を浮かべ、私に向かって右手を差し出しながら、そう言った。
