「うへ~。台湾の悪夢がよみがえるよ~」
『「お前がやっちまったことだろ?悪夢というな」』
同僚とダストが同時に僕をいじる。同じ場所ではないが、兵士らはチェコ軍のだ。台湾の時のことを思い出すよ。
「うるさいな……人体実験されると思ったもん……」
MPPRをしっかりと抱えて、F46Tがバックに固定できているか確認する。僕らは今チェコ軍が構えているキャンプにいる。そして今向かっている場所はブリーフィングルームのある窓一つもない建物だ。
「しかしまぁ……僕が指名されるとはねぇ~」
いつもの口調に戻して呟く。僕は基本的に他国から忌み嫌われている存在だ。それなのにわざわざ指名してきたんだ。
「そりゃまぁ……お前が最強のスナイパーと呼ばれているからじゃない?任務は反乱部隊の司令官の殺害だ。正規軍じゃない。だからじゃないか?あ、どうも」
「ありがとうございま~す」
建物のドアを開けてくれた兵士に礼をして中に入る。中は薄暗く、危うくつまずくところだった。
△△△
「やぁ、よく来てくれたね……「使い捨てのホワイト・フェザー」、月夜仁君」
廊下の奥から一人の兵士が歩いてきた。初老で会長さんよりも若いけど、彼とは変わらないほどのオーラが漂っている。そして手を差し伸べてきた。
「えぇ、こんにちは」
「立ち話するのもあれ何で二階のブリーフィングルームに行きましょうか。作戦概要とともに」
彼の顔は笑顔だったが、口は笑っていなかった。それもそのはず、相手は僕だ。まだなぞ多き財団の謎職員、かつ人外でもある。よっぽどのことがない限り、初対面で警戒しない人はいないだろう。
「それにしても、実在してたんですね」
「え?」
「あなたがですよ。私もうわさ程度でしかあなたのことを聞いたことがありません」
階段を上がりながら話す。
「それにしても腕前は本当なのか?こんな見た目で?」
二階に上がった時、彼はそんなことをつぶやいた。結構小声だったから独り言のつもりだろう。でも僕にはしっかりと聞き取れていた。
「心配いりませんよ。僕の腕前は……そんじゃそこらの兵士ではたどり着けない区域ですので」
僕は会議が嫌いだ。何とも言えないピりついた感覚に、圧迫感をもたらす上官の空気。特に他国の部隊との共同作戦ではよりね。
「—――ていうことだ。彼とは仲良くしてもらうよ」
背中を押されて誰もいないパイプ椅子に座りこむ。周りからの視線が痛い。僕がいるブリーフィングルームの中には7:3ぐらいの割合でチェコ軍と財団部隊が入り混じっていた。同僚らはまだしも、チェコ側の視線が痛い。
「質問がある。なぜこの人外と協力しないといけないんだ」
机の向かいに座っていた一人の兵士が声を上げる。
「簡単だ。彼は私たちができないことを平然とやってのける」
「それでも使い理由にならないはずじゃないですか。いたって普通の暗殺任務のはずです。私たちで十分な気が……」
他の兵士らも続々と声を上げる。よっぽど目の敵だった人外と手を組みたくないみたいだ。
「静かに!」
上官の一言でみんなが黙り込む。そして彼はゆっくりと口を開いた。
「よく聞くように。彼は人外であるが、同時に優秀な狙撃手だ。君たちが何を言おうとも、上は彼の能力に目を付けた。上のことは絶対だ。分かったか!」
「「「「イエッサー!」」」
不服そうな声であるが、同時にもやる気に満ちた声が部屋の中に響いた。
△△△
「てことで、彼が君のスポッターのグエン・ヴァン・クアンだ」
「あ、月夜仁です。よろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそよろしく」