目の前に現れた人の身長を遥かに上回る怪物、"ウォーデン"。
コードネーム:"アバドン"はダイバーズの正面に堂々と仁王立ちしている...が動く気配がない、まだ"起動"していないということだ。
ダイバー1「!?...!..!!」
素早く言葉からハンドサインに切り替え、部隊に撤退を指示する。"前回"の失敗を踏まえた訓練の賜物である。
そして静かに、厳かに撤退を始めたダイバーズ、撤退中に石をそっと拾って放り投げる。場所は"ウォーデン"の真後ろ。
"カランッ、コロンッ"
音がなった瞬間、”起動”した"ウォーデン"は即座に振り向き、後ろの壁へと突撃する。轟音と共に後ろにあった壁を容易くぶち抜き、部屋だったものを瓦礫の山へと変えた。
時間は稼いだ。後は散歩から戻るだけである。
ダイバー1「やはり音による反応速度は尋常ではないな…敏感どころか過敏ですらある…。観測班、何体いる?」
観測班1「...現段階ではおおよそ3体、更に増える可能性がありますね。」
ダイバー1「それは不味いな、まだ残っているdiver’s各員に報告しろ。散歩は終わったとな。」
観測班1「了解、スニークによる静音での撤退を徹底させます。」
命からがら防衛陣地に戻ってきた散歩班。一息ついてすぐに気持ちを入れ替える。正面衝突は避けられない。
ダイバー1「1体ですら倒すのに必要な戦力は最低でも1個中隊規模はかかる...それが現段階では3体...1個大隊以上の戦力に匹敵するな。」
逃げるのであれば1個小隊程度でも問題ないが、完全に倒そうとなるとそれ以上の戦力は欲しい。現状1体=1個中隊(300人)で見積もっているが、正直一度しか交戦データが取れていない以上、もっと多めに見積もっていたほうが良いのだが…
遠目から奴らを観測する。廃墟となり、粉塵が包み込む遺跡にポツポツと立つ巨大な影達…数は3つ、それぞれが各場所で仁王立ちしている…前回の行動を踏まえ、ヤツらが消えるまで待てばいいのだが…それでは本来の目的に反する。
ダイバー1「始めるぞ、”アバドン”達を誘導し、”スカルクシュリーカー”を破壊しても問題ない距離まで引き離す。…再生してくれ。」
ピグリン兵1「わかったんだべ隊長さん!」
その言葉に従い、一台の装甲車両が動き出す。何ら至って普通である…上に大きなスピーカーを載せているところ以外は。
ピグリン兵1「みゅーじっく…スタート!!」
そこから流れるのは…Queenの『Don't Stop Me Now』、元々何かしらの音を流す事は予定してたが今回は兵士の士気を上げるためにこの音楽が選定された。
“Tonignt, I'm gonna have myself a real good time”
(今夜は一人で思いっきり楽しむんだ)
”I feel alive and the world I'll turn it inside out, yeah”
(生きてるって感じられるような、天地がひっくり返るくらいの)
ビクッっと反応した”ウォーデン”達は揃って音の発信源…あのスピーカーを見る。
”And floating around in ecstasy. So don't stop me now, don't stop me”
(最高なエクスタシーを感じたい、だから止めないで、僕を止めないで欲しい)
うめき声を上げる。そう、今からでも飛び出しそうな勢いだ。
”'Cause I'm having a good time, having a good time”
(だから止めないで、今良いところなんだから)
叫び声を上げながら3体の”ウォーデン”は音の鳴る方へ全力疾走を開始する。
“I'm a shooting star leaping through the sky”
(まるで俺は夜空を駆け抜ける流れ星)
”Like a tiger defying the laws of gravity”
(トラみたいに、重力なんて跳ね返しちゃうよ)
オペレーター1「砲兵部隊、準備をお願い致します。」
後方の砲兵部隊が準備を始める。砲塔を回し、ロケットランチャーを詰め直す。
”I'm a racing car passing by Like Lady Godiva”
(まるで走り抜けるレーシングカーはあのゴダイヴァ夫人みたいにね)
全力疾走は止まらない。土煙をあげ、自らの筋肉を最大限まで使った走り方だ。激突すれば装甲車両ですら文字通り「く」の字に曲がるだろう。
”I'm gonna go go go.There's no stopping me”
(このまま飛ばしまくろう。僕を遮るものは何もないから)
“ウォーデン”達と”スカルクシュリーカー”の位置が…問題ない距離まで…離れた。
“I'm burnin' through the sky, yeah”
(空を駆けながら沸き立ってるよ)
砲兵部隊長「撃てぇ!!」
”Two hundred degrees. That's why they call me Mister Fahrenheit”
(200度はありそうだ。だからMr. ファーレンハイトっていうあだ名がついたんだ)
各砲兵装備群が一斉に火を吹き、第二波の砲撃を投射する。
”I'm traveling at the speed of light. I wanna make a supersonic man out of you”
(音速で夜空を駆け回って、君もスーパーソニックマンになろうよ)
放物線を描いた投射物が、おおよその場所を再特定していた”スカルクシュリーカー”に突き刺さる。
”Don't stop me now, I'm having such a good time”
(止めないでくれ、良いところだから)
“I'm having a ball. Don't stop me now”
(今を楽しんでるんだ、だから邪魔しないで)
オーバーキル並みに爆炎が咲き乱れ、完全に破壊に成功する。これでもう”ウォーデン”は別次元の位相に戻ることは出来ない。
“If you wanna have a good time. Just give me a call”
(君も楽しみたいなら僕に連絡してくれれば良いよ)
ビクッ…と震えた”ウォーデン”は先程の疾走が嘘のように失速する…射程距離に入り特定のポイントまで誘導できた…この機を逃すほどこの場にいる者達は無能では無い。
“Don't stop me now. 'Cause I'm having a good time”
(今は止めないで、超楽しんでるんだから)
“Don't stop me now. Yes I'm having a good time”
(今は邪魔しないでくれ、良いところなんだから)
待ち構えていた歩兵、装甲車…最前線にいる全てが一斉に射撃を開始する。普段の小銃弾に加え、機関銃や機関砲弾といった高い火力に前回とは比べ物にならないほどの密度を持った弾幕が、1個大隊以上の戦力を有する3体のウォーデンをその場に縫い付ける。
I don't want to stop at all…
(絶対邪魔しないでね)
編集により音楽は一番の所で止まる…音楽会はここまでのようだ。
兵士1「火力を緩めるな!その場に留まらせ続けろ!」
並の生物なら一瞬で蜂の巣になりそうな火力を受けてもなお、苦悶の声を出しながら”ウォーデン”はその場で耐え続ける。
兵士1「各員!各部隊と連携してウォーデンを引き剥がしキルボックスまで誘導させろ!」
後は射撃により徐々に誘導させていく…ここから精鋭部隊によるウォーデン討伐作戦が開始されたのであった。