彼はそのことについて驚くべき程冷静に伝えた。
次の瞬間、空気はすでに凍り付いており
ハニーズディル局長の額からは
冷や汗が流れ落ちていく。
「…奴は、一体、何をしようとしているんだ?」
「完全武装の2個歩兵旅団戦闘団と
1個機甲旅団戦闘団を作れるほどの兵器を買い付けようとしてます」
「チェコ政府に許可は?」
局長は震えかけている声でそう聞いた。
「ありません」
「どうしてそんなことを画策しているんだ?
警備力増強なら海南武警にでもやらせておけばいいだろう」
「あくまでこちらの考えにすぎませんが…
マカオ危機について覚えていますか?」
「ああ、今も昨日のことのように覚えている。
それがどうしたんだ?」
…マカオ危機。東州内戦によるHCOの混乱を原因として始まった
イベリア・ハプスブルクによる奇襲的な領土併合要求であり、
チェコ政府からイベリアへのマカオ譲渡によって解決した
新冷戦中で最も第三次世界大戦に近づいた出来事。
「あの時、マカオ政府に一切の発言権はありませんでした。
いわばトカゲの尻尾… 言い換えれば手ごろな交渉材料にされたんですよ」
「だが、そうしなければ世界大戦が勃発したんだ。
私個人としては必要な犠牲だと思っているよ」
「その事については一旦置いておくとして、
ともかくあの男はその事を激しく憎んでいます。
恐らくですが、自前で海南島を防衛できる戦力を
揃えようとしてるんでしょう」
「防衛? 一体どこの国からだ?」
「全ての国ですよ」
「…す、全ての国と言うと?」
いとも簡単にそのことを言い放った
目の前にいるたった一人の部下の前に、
ハニーズディル局長は動揺を隠せていなかった。
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