「ユニット03、南側非常梯子確認。熱源反応2、交戦準備を」
ノイズ混じりの音声が通信に走る中、ENノクターンの黒装備が無音でビル影を移動していく。ドローンがビル群の谷間を滑空し、赤外線の網を張る。既に無人機隊と汚染者たちの抵抗の後が生々しく地面に赤黒くこびりついていた。
「—やめろ! こっちは何もしてない!」
叫び声が響く。工場の一角から、男が両手を挙げて飛び出してきた。後ろからは幼い子どもを連れた女、そして老いた女が這うように出てくる。全員、登録IDタグなし。テミスからの判定は即座に下る。
「犯罪係数371、301、322、319。執行対象です。速やかに執行してください」
バシュッ、と音がして、空気が震える。後ろからTYP-57の砲塔から打ち出された青白い光が一筋の線を描いて、光を受けた男の身体が内側から膨張するように破裂し赤い液体と焼け残った肉塊を振りまく。女は子どもを庇って悲鳴を上げ、だが次の瞬間には隊員の銃撃によって諸共床に崩れ落ちる。
「誰の戦果だ?」
『あとででいいだろ』
周囲で爆音。非常階段の上部で誰かが即席火炎瓶を投げた。
「ユニット05、火線確認! 照準中――」
だが、その言葉よりも速く、1人の隊員が膝をついた。肩口を焼かれた黒装備が煙を上げる。
別の隊員が素早く対応し火元の男を銃弾を浴びせた。血飛沫は雨で即座に洗い流される。
「残存熱源ゼロ。第一区域、鎮圧完了。マグネシウムが負傷したが軽傷だ」
空中からドローンは逐次封鎖エリアをスキャンし執行者をあぶりだす。データベースは逐一更新され、無人機隊は無感情に見つけた執行対象者を無慈悲に撃つ。都市の破壊は最小限に抑えられる。
『空中管制ドローンからのスキャン結果が出た。新たに反応多数。地下通路だ。たくさんいる。CVC照合急げ』
『全員、照合結果が出次第ただちに執行。仕事は早く終えて家に帰れた方がいいだろう?』
「はは、そうだな。さっさとやってしまおう」
少佐の声が隊内通信に走った。
「RELIC群へ伝達。Bエリアの執行完了。死体回収を依頼」
『RELIC09、了解。直ちに向かう』
雨は止まない。無人機の残響音と、遠くで泣く子どもの声、そして銃撃音だけが支配していた。
・JLY
江南綠源農業股份有限公司。蘇州の地元企業。
・特別行政区での警察
珠江特別統治区やヴァスコ・ダ・ガマ行政区などでは警察の民営化に伴い、各団体や企業などから個別にPMCへと依頼を出して"サービス"として警察業務を提供している。対処にかかった時間や人件費などを含めて後から顧客へ請求される。
一応行政区からの補助金も出るが、全額ではない。依頼主は個人から企業、行政区など様々。
・治安維持協力金
行政区における治安維持活動を行ったPMCなどに対して支払われる。依頼の規模によっても金額は変わる。
・RELIC
ENノクターン・セキュリティが有する治安部隊。実弾による執行後の死体回収・血痕などの洗浄を担当する。
・サイコハザード
精神汚染。集団で起こるUCCIの規定値異常を主に指す。
なんだこの絵はたまげたなぁ()