黒い.....ただただ黒い。上も下もわからない。そもそも、自分の身体がどこにあるのかさえも。
延々と続く漆黒の空間で、彼女は意識?を取り戻す。
「なに、、、がっ、、、起こった?私は確か、、、あれ?私は何で、、、ここにいる?」
記憶が曖昧で、感覚も、身体も全て溶けているような、、そのような感覚に包まれる。
「思い出せ!!何があった?!」
必死に思い出そうとする。水中を進むような、もどかしい感覚に苛まれながら、砂浜でダイヤを探すように。
「こ.....体...一部を.....」
「誰の、、、、声?」
聞き覚えのない声だ。一部?何のことだ?曖昧な記憶の散策は”それ”に対する疑問へと変わった。
「こいつは.....がある。できな.....だけだ。手伝え、手..........所を探す。」
声の主は二人、何か話しているみたいだった。
「っぐ!!あ”あ”っ!!!」
突然腹部と左腕に激痛が走る。外傷はない。
「何、、、何よ、、、っ、、これっ!!」
激痛に耐えられず、目線を下に落とすと、赤い血だまりに、無数のどす黒い触手。それが足元から徐々に、体をきつく締めあげながら這い上がってくる。
「離れろ!!このっ!!化け物がぁ!!」
今まで出したことのない怒声が漆黒の闇に響く。しかし、そんな彼女の憤怒も、届かない
ミシ.....ミシ
骨がきしむ音がする。どす黒いそれは上半身にも巻き付き、体の自由を奪いながら、力を強めてくる。
「ガハッ.....待って、、、、も、、、」
意識を手放しそうになる中、一本の触手が狙いを定めるようにこちらに向く。
「そうだ、、、確か、、、私は、、」
ここに来る前のことを思い出す。そして、、、重なる。
「やめろ、、、、やめ、、、、やめて!!いや!!離せっ!!!離してよ!!この!!」
何が起こるのか、簡単に想像が着いた。仲間や家族にも見せたことのない弱い彼女の姿がそこにあった。
触手はゆっくりと彼女の腹に向かって前進する。
ズブリ
下腹部をえぐられ、内蔵がかき分けられながらゆっくりと味わう様に進んでくる。
「ア、、、、ガッ、、、ウプッ、、、、」
もはや声にすらならない呻きをこぼしながら、暗い闇へと、意識は沈んでいった。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」
絶叫しながら体を跳ね上げる。しかし、さっきのような真っ暗な空間ではない。
一定のリズムを刻む電子音、静かで真っ白な部屋。
「っ、、、、、、あ、、、、」
安堵とともに大粒の涙が、とめどなく頬を伝う。
「アー、、、サー?」
右手に温もりを感じる。そして、目を丸くしてこちらを見る女性。黒い長髪が揺れ、オレンジのインナーが見え隠れする。
「ルイーシャ、、、、ルイーシャっ!!」
泣きながら彼女は抱きつく。本来守る対象のはずの彼女に、今は弱い自分をさらけ出している。
「アーサー、、、良かった!!、、、ルーカスさんから、、連絡があって、、、それで、、」
ルイーシャもアーサーを抱き返す
「ルーカス、、、あいつめ、、、気が利くじゃない、、、」
安堵とともに、軽い会話を交わす二人、しかし、ふと思い出す。
「あの2人は?」
「あの二人?、、、ああ!アーサーを病院に連れてきてくれた人たちね!ごめんなさい、、名前は聞けてないらしいの。出来ればお礼を言いたいのだけど、、、」
ルイーシャは申し訳なさそうに話す。そんな彼女の頭を優しく撫でる。
「どうしたの?アーサー?」
きょとんとした顔で聞いてくるこの顔が、何とも愛くるしい。そうだ、帰って来たのだ。
「いや、、、なんでもないわ。いつか、この借りを返さないとね、、、あの二人に。」