唐揚げ司令
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2025/08/22 (金) 23:49:01
「そう.....」
スマホから電子音が一定のリズムで流れる。
スマホのキーをタップし、カバンにしまい込み、再び彼女は目の前の”容疑者”へと視線を向ける。
「貴方、軍人さんだったんだ?」
『そうだが?それがどうしたってんだ.....わたしゃ速くこっから抜け出して帰りたいんだがねぇ.....』
少し間をおいてルイーシャは再び話す。
「いや、貴方が頑なに口を割らないのも、軍人さんなら納得が行くから。」
『なんだ、やっと信用する気になったか?』
女の様子はやれやれといった感じ、一度は殴りかかってやろうかとも思ったが、これも長い人生?を歩んできた中で学んできた”処世術”なのではと、妙に納得しかけてしまった。
「まだ貴方を完全に信用したわけじゃないわ。」
『んだよ、まだ続くのか..いい加減にしてくれ.....』
「しょうがないじゃない、貴方の言うペスト医師の女性がやったってそのペスト医師の情報が全くないんだもの。」
女は明らかに苛立っている。机を指でつつき、足を組みながらこちらに鋭い視線を向ける。
「お前、そろそろいい加減にしろよ?それともなんだ?この国にはプライベートの侵害が許容される憲法でもあんのか?」
圧が強くなる。眉間にもしわが若干見えてきた事からも何が起きてもおかしくない状況だった。
??{なあ、あんたら、注文がないなら出てってくれるか?}
張り詰めた空気を断ち切ったのは白髪の中年男性.....この店のオーナーだ。
「あ..え~と..ごめんなさい。じゃあコーヒーを頂ける?」
{個数は?}
「貴方は飲める?」
『..っ、ああ、飲めるよ』
「じゃあ二つ、お願い」
{あいよ..まいどあり}
数分後、なだらかな湯気をまとったカップが二人に届けられ、一時的に心地良い香りで辺りが満たされる。
通報 ...
「じゃあ気を取り直して.....」
『っ』
女の顔からも”うわっまたかよ”と音も無いのに聞こえてくるようだった。そんな彼女をなだめるようにして話し始める
「安心して。あなたの事はもう詮索しないわ。最後に聞きたいのは、そのペスト医師についてよ。名前と、何処にいるのか話してくれる?」
『ハイハイ.....だが、それを話したとして、お前が私にちょっかいかけない確証が欲しいねぇ』
「そうねぇ.....」
「もし貴方が今後、”私が原因”で被害を受けたら、私の命を差し出す.....なんてどうかしら?」
一瞬ぽかんとしたような表情を見せた後.....
『.....は?お前正気か?こんなことの為に。』
「ええ、勿論正気よ。でないとこんなこと言わないわ。貴方に信用させようとしたら、これくらいしないとダメみたいだし。」
『わかった。でもよ、話すのは名前といる場所だけだ。あとは自分で探せ』
「ええ、、十分」
数分の後、そのペスト医師がカッルという名前である事、そして隣国の帝国にいることをやっと聞き出せた。
「ありがとう.....協力してくれて。感謝してるわ。これで、”犯人”を殺せる」
『私は早く帰りたいだけだ.....だがよ、おめーじゃあいつにゃ勝てねーぞ。一応の忠告だ。アーサーを泣かせたくないならやめとけ。』
親切心なのか、厄介ごとを増やさないための釘なのか、どちらとも似つかない言葉がルイーシャに刺さる。
「ええ、確かに”私一人じゃ”勝てないわね。」
怪しく微笑むルイーシャ。そこで違和感に気付く、余りにも静かだ。街中の人の声も店内からの話し声も何もかも、、聞こえない
『なんだ?こりゃ』
辺りを見渡すと全員が”こっちを見ていた”瞬きも呼吸をしているかも怪しい。
『これで勝ったとしても、おめーの周りは地獄だぞ?』
「どうかしら.....やってみないと分からないわ」
ルイーシャが指を鳴らすと、何事もなかったかのように街が動き出す。静けさは人々の声の濁流に飲まれていった。
「じゃあそろそろお暇させていただくわ。長時間拘束して悪かったわね、今後、貴方に余計な詮索はしないわ。何かない限りは。」
『全くだ.....』
ルイーシャは席を立ち、踵を返して会計を済ませ、店を出ていった。何重にも交差する人の流れが、彼女の後ろ姿をかき消していった。
ため息をつきながら、ルェンは机に目を伏せる。目の前にはコーヒーの入ったカップが一つ。
『結局飲んでねぇじゃねーかよ、ったく』
将来的にカッルとの茶番が始まりそうだぁ…()どんとこい()