迫水の剣が、前後左右に閃光のように振られた。
左手であったが、いまの迫水の腕力は、それを風車のように回した。(旧)
迫水の左手の剣が、前後左右に風車のように振られるのだが、(新)
読み返し。少し場面を戻って、オットバの鞭を払う迫水の剣について、左手でそれをすることに旧版では「いまの迫水の腕力」と言っているのは戦いを重ねて鍛えられているからにも読めるが、以前の章ですでに、迫水の身体能力の強化や治癒力にはリーンの翼の顕現がかかわっているのではないかと仄めかされていた。ここは、完全版ではその曖昧な示唆は省略されている。
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オットバの剣をかわす迫水の慣性に反する動きに、オットバはリーンの翼の顕現!?と察してその瞬間に退散する。ヒーローが変身する前に襲い、「変身する」と気配を察したらすぐさま消えてしまう、したたかすぎる敵だ。
このときの迫水についても、空中で二段ジャンプのようなありえない動きをしたのは、目に見えていない状態のリーンの翼が羽ばたいたとも思えるが、迫水の常人離れした身体強化のせいで、直角にターンするような……慣性を無視して見えるほどの運動をしたのかもしれない。航空機でいうと大Gのかかるとんでもない機動をしたかのような。
この春『ガーゼィ』を読み返す中で、ガーゼィの翼は「翼の靴」というアイテムは必要なく、クリスがいればクリスの足に直接生えるので、ひるがえってリーンの翼も、本当のところ靴は要ったのか要らなかったのだろうかと考えていた。旧版範囲のストーリーでは、これから後その話にもなっていく。
本当のところは翼の靴はいらなくて、心で飛べれば迫水も、迫水自身でいるだけで翼を顕現できたんじゃないか。『リーンの翼』はそういう物語にすればよかったと著者も思ったから、後のガーゼィではアイテムとしての翼の靴はあらかじめ廃止になったんじゃないか、とも、わたしは想像もしたんだった。
靴というアイテムは「象徴」、という考え方もある。もっともリーンの翼自体が象徴だと思えば象徴の象徴のようで冗長な装置かもしれない。
完全版後編の話も少し先取りをすると、結局『リーン』の中では靴は必要なもので、心ひとつでは飛べない。後には迫水とエイサップとで靴の取り合いのようなこともする。六十年間、迫水は戦場に出ていないほとんどの時間は靴を履いていないはずだが、魔的な道具と使い手の肉体との絆のような切れない関係があるのか……のように今ばくぜんと考えておく。
余談 1 / 2