囚人を裸にして全身に蜜を塗りたくり、野外に置いて虫に(ここでは蟻に)生きながら食わせるという刑罰は、古代の話には時おり出てくる。それに取材した現代の小説にも出てくるだろうから、わたしは前にどこで類似の話を読んだかも憶えていない。
ネットで検索すればすぐに出てくる、だろうが、ネット上にある記事はまちがいなく「残虐嗜好」以外の興味ではないだろうから(記者も閲覧者も)、取り上げている事柄や筆致にまず大幅なバイアスがかかっている。歴史家がどんな公正を期してかかっても元々が残虐行為なことは当たり前なうえで。そう思えばわたしは軽い気で調べる気がせん。
それとはほかに、それに似た刑を課して広場に縛られたが、罪は無実なので、神が昆虫や小動物に命じるか、蟻や蜂が察して縄を食いちぎってやり本人は傷一つ付けずに済ましたという話もたしかある。それはむしろ神明裁判のような話の発想だ……。伝説に特定の起源を求めなくても、個々にそういう話を思いつきうる。
『ろば』のここでは、奴隷を罰するのは奴隷所有者(主人)の勝手で、そこを通過する人々は「無惨なことだ」とは思い、恐れても、その主人の仕方に対してとやこう口を挟んだりしていない。作家も今この文脈でそんな関心はない。不身持な奴隷にそれなりの応報が下ったという話だ。
たとえ罪人でも、悪人を罰するにもやり方があろうのような感覚は……よほど後代のものか、異邦の旅人が発言することなら古代人が古代社会を観察しても「なんと野蛮な風習だ」と言っていることはある。
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