今回はツルギ異聞全編を通して3番目に汚い回です。耐性のある方のみお進みください。
7月25日、シルキーガが撃破された翌日。
デルタのアジト内でデルタナンバーズで最も小柄な哺乳類型レプリロイドが
モニターから流される人間の醜い面を収めた数々の映像をデルタの説明を聞きながら視聴していた。
映像には不良や暴走族といった非行少年と彼等の行為が収録されている。
デルタは囁くように哺乳類型レプリロイドに言う。
「人間の若い個体は時として親の言う事や社会のルールに背く事を格好いいとはき違え
奇抜な服装や粗暴な口調で己を誇示しては欲望の赴くまま他者に害を成す。
彼等は少年法なる悪法で守られ罪に釣り合う罰を受ける事はない…」
「…そうッスか…」
哺乳類型レプリロイドはただ一言応じる。
そしてデルタは続けて言う。
「更にこういう人間は極稀に良い行為をした時は過剰に賛美され
成人して就職した後も過去の己の愚行を悔いる事なくあまつさえ『武勇伝』として自慢したりもする。
そして人間社会ではこういう人間を娯楽として消費する文化さえある…
愚かだと思うだろう…?」
「…そうッスね…」
哺乳類型レプリロイドはまたも頷くが…
「(か、カッコいいッス…!)」
彼はデルタの思惑とは裏腹に不良、特に暴走族に憧れの念を抱いてしまったのだ。
しかしその想いは内に秘めデルタには明かさない。
そんな彼の心情は露知らずデルタは彼に任務を与える。
「彼等に然るべき罰を与えて街を綺麗にするんだ、いいね?」
「任せるッス!!」
哺乳類型レプリロイドは力強く頷き、出撃していく。
その日の深夜、新宿区の公園ではある暴走族が集会を開いていた。
彼等のチーム名は「マッドボアーズ」。
新宿区に名を連ねる暴走族の1つで赤灯会がケツ持ちをしている。
「弟をいじめたガキの家に殴りこんで家族全員土下座させたでヤンス!」
「電車で目の前に立っているばあさんを無視して優先席で大声で電話しているチンピラがいたでガンスが誰も注意しねーもんだから俺が説教してやったでガンス!」
「後輩を闇バイトに巻き込もうとしやがった連中をまとめて叩きのめしてやったでゴンス!」
各々の「武勇伝」を誇らしげに語るマッドボアーズ構成員達。
そんな中一際厳つい男が己の武勇伝を語る。
「こないだ出会った”女”(スケ)といい”感じ”(ステージ)になってたと思ってたんだがよ、
結局”美人局(つつもたせ)”でな、女の”バック”には武装した大勢の半グレがついてやがった…
”頭数”(へいたい)と”得物”(どうぐ)があれば俺に勝てると思ったのか連中は”調子乗って”(チョヅイて)たんだがよ…
女ともどもまとめて”理解”(わか)らせてやったぜぇ!!」
男の風貌はモヒカン頭で上を向いた鼻が特徴の何人か殺ってそうな悪人面、
身長は劾ほどで体型は筋肉質、革製のベスト、グローブ、ズボン、ブーツと金属製の肩当てと膝当てで身を固めているという
世紀末の荒野を駆け抜けていそうな、そして遭遇した誰もが関わり合うのを拒絶しそうなものであった。
彼こそがマッドボアーズの総長にして、劾、玲、氷藤、そして後述の「馬場」の中学の同窓生、猪狩進である。
「総長に喧嘩売るとはバカな奴等でヤンスね~!!」
「総長、今回”も”美人局でガンスか?」
舎弟達の中には猪狩を称賛する者もいれば心配そうに問いかける者もいる。
「そうなんだよな、俺は”不良”(ワル)の中じゃあ人望はある方だけどよ、”一般人”(パンピー)…特に女受けは悪くってよぉ…
”本気”(マジ)の”恋愛”(ラブ)には未だに無縁でよぉ…」
ため息交じりで応じる猪狩。
「俺も似たようなもんでヤンスよ…」
「俺も同じでガンス…」
舎弟達も猪狩に同調していく。
そんな時一人の舎弟が思い出したように言う。
「そういや、渋谷区のババアの奴、彼女できたみたいでゴンスよ。それも相手はあの雷堂天音(らいどうあまね)みたいでゴンス」
ババアとは高齢女性への蔑称だが、彼の言う人物はその真逆。
猪狩並びに劾等の中学の同窓生にして汰威超組がケツ持ちしている暴走族「ハザードベア」の現総長、馬場丁司その人の事である。
ちなみに初代総長は高校生時代渋谷区で活動していた熊害。
そしてこの報せを聞いた猪狩は…
「あ、あ、天音ちゃんだとぉ!?」
どうやら天音は猪狩の意中の相手であった。
それ故彼はこれを聞いて雷に打たれたような、この世の終わりのような衝撃を受けた。
「そ、総長?」「大丈夫でヤンスか総長!?」
心配そうに猪狩に声を掛ける舎弟達。
すると猪狩はポツポツと語り出す。
「…思えば…あのクソババアには何一つ勝てる要素が無かった…
”容姿”(ルックス)、人望、腕っぷし、勉強…勝ってるのは”身長”(タッパ)だけだがそれが何だってんだ…
氷藤のクソの時だってそうだ、俺はただ奴に殴られ屋を強要したりクソしてる映像をネットに流したり画鋲席と画鋲シューズを義務付けたり
ロリコンだの殺人犯の加害者だの根も葉もないデマをでっち上げ本人に無理矢理認めさせたりしただけじゃねぇかよぉ…
それを俺を悪者にしやがって…
バックの組もクソババアの方が勝っちまうし、そこに今回天音ちゃんもクソババアに取られちまうし…
結局俺はクソババアに今までもこれからも勝てねぇままなのかよぉ…
ブヒィ…」
悔し涙に頬を濡らす猪狩。
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「そ、総長、俺達が付いているでヤンス…!!」
「ウ…ウ…辛いでガンスね…悔しいでガンスね…」
「分かるでゴンス…分かるでゴンス…クウウウ…」
舎弟達も貰い泣きを始め集会はお通夜ムードに。
「”女々しくて”…”女々しくて”…”女々しくて”…辛いぜぇ~っ!!!!!!!!!!!!」
夜の公園に猪狩の慟哭が響き渡る。
「へぇ~これが本物の暴走族って奴っスか…思ったより情けない感じっスね…」
猪狩の慟哭を遮るかのように突如としてどこからか声がする。
ビキビキビキ…
瞬時に猪狩の顔面が血管で覆い尽くされ声のした方向を向く。
「誰だぁ、この俺をディスりやがった奴ぁ…」
!?
そこにはクルミ色のカラーリングで所々バイクを思わせるパーツが見られる小柄なイタチ型レプリロイドが佇んでいた。
「オレはスプリント・ウィーゼランッス。
人間の暴走族に興味があるんス。
早速ッスがこのチームの総長の座をかけてタイマン張らないッスか?」
イタチ型レプリロイドは名乗った後猪狩にタイマンを申し込む。
これに対し猪狩は…
「(こ、こ、こいつは都内に現れた一連のロボット共の仲間じゃねーか!
まさか”本物”(マジモン)と”出会う”(エンカする)事になるなんてよぉ…
今までの奴等はロックマンと善戦したみてぇだが、こいつは『考坂(こうさか)』ぐれぇ小せぇ…
これならいくら何でも俺でも行けるかもしれねぇ…そしたらクソババアも見返せる…
”幸運”(グッドラック)が舞い込んできたぜぇ!!)
いいだろう、男猪狩進、この勝負受けて立つぜぇ!!!!!!!!!!」
ウィーゼランの小ささに油断した猪狩は意気揚々と彼に挑みかかるも…
シュンッ!!
「”消え”(フェードアウトっ)た!?」
猪狩の眼前にいたはずのウィーゼランが彼の視界から消えたのだ。
ズドッ!!「ブヒ!!」」
横からのウィーゼランの跳び蹴りが猪狩に炸裂した。
「クッ!!」
吹っ飛び起き上がった猪狩に反撃を許さず次のウィーゼランの攻撃、肘鉄が決まる。
それも先程攻撃を受けた位置から考えると有り得ない位置から攻撃を受けたのだ。
「このっ!!」
ブンッ!
ウィーゼラン目がけて拳を振るう猪狩。
「遅いッス!」ドッ!!「ブヒッ!!」
ウィーゼランは猪狩の腕に飛び乗って跳び蹴りを繰り出す。
「ハァ…ハァ…何なんだよぉ!!まるで影じゃねぇか!!でもこっちは攻撃を喰らうって事は実体があるって事だろ!!訳が分からねぇ!!」
それ以降も一方的に攻撃を喰らっていく猪狩は次第に焦りが現れる。
「トドメっス!!」
ドガッ!!
「ブヒィィィ!!!!!」ズザザザザザザ…
ウィーゼランの止めの一撃が猪狩に炸裂した。
「”不幸”(ハードラック)と”踊”(ダンス)っちまったぜ…」ガク…
猪狩は負けを認め気絶した。
「「「総長~っ!!!!」」」
猪狩に駆け寄る舎弟達。
暫くすると猪狩は目を覚ました。
「完敗です、これからはあんたがウチの総長です」
「お前等のチームは何というッスか?」
「マッドボアーズと言います」
「よし、それじゃあこれからはチーム名を『マッドウィーゼルズ』に改名ッス!!
お前は今から副総長ッス!」
「ヘイ、分かりやした!おめぇ等もそれでいいな!?」
「「「ヘイ!!!」」」
喧嘩に負けた猪狩は潔くタイマンの条件を呑んでウィーゼランを新総長に迎え入れチームの改名も舎弟達共々快諾した。
そしてそのままウィーゼランと話し込む。
「はぇ~、総長は未来から来たロボットなんですかい」
「厳密には『レプリロイド』ッスね。オレに檜町公園のジュラファイグ、お台場のレディバイド、国会議事堂のシルキーガ、
そしてそのオレ達を造ったででデルタみてぇな魂のあるロボットがレプリロイド、
それ以外の魂の無ぇのが『メカニロイド』ッス。
ロボットはレプリロイドとメカニロイドの総称っスがオレ達の認識じゃあメカニロイドの事を言うッス」
ウィーゼランは自分達の素性を猪狩達に包み隠さず話す。
「今のAIロボットより進んでいるんですね」
「当たり前っス!段違いッスよ!」
猪狩の問いに得意気に応えるウィーゼラン。
「ところで総長は人間の暴走族に興味があるって仰ってやしたが…」
「その通りっス!デルタはオレにヤンキーや暴走族を始末するように言ってきたッスが
そのヤンキーや暴走族について学習しているうちに魂に火が着いちまい喧嘩して舎弟に加えていく事にしたんス」
猪狩の次の問いにウィーゼランは意気揚々と応じるが…
「でしたらこの俺に任せてつかぁさい、この時代の”不良”(ワル)の世界を俺が”案内し”(ガイドっ)て差し上げやしょう!」
「恩に着るッス、猪狩!」
ウィーゼランにこの時代の案内人を買って出る猪狩だったがこの時彼の胸中には黒い企みが巡らされていた…
翌日、猪狩はウィーゼランを伴って夜の繁華街を繰り出していた。
因みにウィーゼランには目立たないようにと布が被せされている。
「”現実”(リアル)の不良じゃ漫画の中の美化された不良…つまり仲間想いで曲がった事が大嫌いな快男児なんざ一握りで大部分はクズなんでさあ、例えばそこの奴等みたいな感じですね。
ちょいとその”一握り”に入ってる俺がシバいて来ますわ」
前方の2人の不良達を指差す猪狩。
その不良達は嫌がる女性をしつこくナンパしていたのである。
「いいだろぉ、姉ちゃんよぉ~」
「悪いようにはしないからさぁ~」
「や、やめてください…!」
その時不良の一人の肩に猪狩の手が置かれた。
「チッ誰だよいい所なのに…よ…!?」
バキッ!!「ゴぺ!!!!!!!!」
不良の一人は振り返った瞬間猪狩に殴り飛ばされる。
「な、何だバ!!??」
ベキョッ!!
もう片割れの不良も殴り飛ばされた。
その直後猪狩は不良達に土下座のポーズをさせた後彼等の頭を何度も地面に叩きつけ始める。
「レディに対して”上等こき”やがって!誠心誠意謝れクソ共がああああああ!!!!!」
ガッガッガッガッガッ!!!
「ひゃ、ひゃめて…」「ひ…ひぬ…」
不良達が額から血が噴き出し気を失った後猪狩は女性に向き直る。
「お嬢さん、大丈夫でしたか?」
気取った口調で問いかける猪狩だったが…
「キャーッ、助けてぇ~っ!!!!!!」
タタタタタタタタ…
女性は猪狩を恐れて走り去っていった。
「……」
猪狩は暫し沈黙した後ウィーゼランを伴って移動し始める。
また別の場所では…
「いいからもっと跳ねてみろよ~、まだあんだろぉ!?」
ピョンピョンピョンピョン!!!
3人組の不良がいかにもオタクっぽい少年にカツアゲをしており、オタク少年は恐怖に震えながら垂直ジャンプを繰り返していた。
その時不良達の後ろから猪狩が現れた。
「それじゃあ効率悪いなぁ~」
「だ誰だボ!!?」「んだオラバ!!?」「やんのかブべ!!?」
ガガガガガガガ!!!
不良3人は猪狩に瞬殺された。
「効率のいいカツアゲたあ、こうやるんだよ!!」
そう言って猪狩は不良達を全裸にひん剥いてしまった。
「ヒーン!!!」「酷いよぉ…」
泣き叫ぶ不良を余所に猪狩は不良達から剥ぎ取った服から金品を物色する。
それが終わると猪狩は不良達の服を持ったまま言い放つ。
「服はフリマアプリで売っとくわ!テメー等に着られたんじゃ服がかわいそうだからな、
ブヒヒヒヒヒヒヒ!!」
そして猪狩はオタク少年のいた方に目をやる。
「ヒ…こ、これは差し上げますから見逃して下さぁ~い!!!」
ピューッ!!
オタク少年は有り金を猪狩に渡すやその場から走り去っていった。
「参ったなぁ、俺がカツアゲした訳じゃねぇのによ…後で返すか…」
悩みつつ猪狩とウィーゼランは更に別の場所へと移動する。
次に猪狩が目にしたのはオヤジ狩りの現場である。
「オラ金目の物全部出せやオッサンよぉ!!」「や、やめなさい!!」
4人組の不良が一人の中年男性に寄ってたかって暴行したり金品を奪ったりしていたが…
「ほーん、若者はオヤジを狩っていいんだよな!?」
「あたりバ!」「ふざけベ!!」「よくもゴ!!」「助けヴェ!!」
ガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!
猪狩は不良全員を瞬殺し、彼等にとある情報を吐かせようとする。
「じゃあ俺はテメー等のオヤジ”狩”(ハント)るわ。
テメー等のオヤジの顔と名前と会社名教えろオラぁ!!!!!」
ゴッ!!ガッ!!バキャッ!!!
「い、嫌だ、誰が教えブ!!」「お、おじえまず…」
「お~いい子だ…ん!?」
ふと猪狩がカツアゲされていた中年男性に目をやるとなんと彼は自身らを通報しようとしていたのだ。
「やべ、ずらかりましょう!」「分かったッス!!」
猪狩達はそそくさとその場を後にする。
「何か猪狩も漫画の中の美化された不良とは違うッスね」
「”一般人”(パンピー)に俺の魅力は分からねぇんですよ…」
猪狩は寂し気に、そしてため息交じりに言うと話題を変える。
「…とまあこんな感じでクズな不良共はそこら中にいるんですがこんなのはほんの序の口。
渋谷区のチーム『ハザードベア』…とりわけ総長の馬場は奴等を凌ぐドクズなんですわ」
そして猪狩は馬場の悪行の現場ばかりを繋ぎ合わせた映像をウィーゼランに見せる。
それは馬場が同級生をカツアゲしたり絡んで泣かせたり弁当の一部をつまみ食いする、
等と言った内容だった。
「さっきの奴等よりはまだマシに見えるんスが…」
異議を唱えるウィーゼランを制し猪狩は馬場の事実を歪曲(わいきょく)した説明を始める。
「これは奴の”悪事”のほんの”一部”…奴は何の罪もない同級生に殴られ屋を強要したり
クソしてる映像をネットに流したり画鋲椅子と画鋲シューズを義務付けたりロリコンや殺人犯の加害者家族を名乗らせたりと”やりたい放題”なんですよ。
にも関わらず奴は強い奴には媚びへつらうし外面ばっかり良くてこの間は俺の”女”まで横取りしやがったんです。
さっき俺達はあんなクソ共にどの要素でも勝てねぇ悔しさに打ちひしがれていたんですわ…」
言い終わる頃の猪狩の口調には悔しさが滲み出ていた。
「馬場…とんでもねぇクソ野郎ッスね…よっしゃ、ここはオレが一肌脱ぐッスよ!
それじゃまずはオレのマシンを紹介するッス!」
そう言ってウィーゼランは猪狩達を広い場所へと誘導すると何かを呼び出した。
ブゥン…
空間から姿を現したのは一見装甲車にも見える外装に覆われ車体上部にビーム砲を備え
3台のトレーラーを牽引する巨大な怪物のようなトラック、さしずめ「モンスタートラック」である。
「ヒョエー、どえれー”クール”ですねぇ!!」
これを見た猪狩はただただその威容に圧倒される。
「まず奴を見返す為にはチームを大きくするッス!
尤もオレが族同士の抗争って奴をやってみたかったってのもあるんスがね…
ってな訳で行くッスよ、野郎ども!!」
「オオーッ、行くぞ、”スピードの向こう側”に!!!!!」
ブロロロロロロロロ…
野獣の咆哮のような駆動音を響かせるモンスタートラックに猪狩等のバイクが続く。
「喰らうッス!!」バキッ!!「グアッ!!」
「タイマンで負けたんだからお前は舎弟ッス!!」「わ、分かりやした…」
ウィーゼランはハザードベアに対抗すべく近隣の暴走族を吸収し始める。
彼等は皆人数が多い、層が厚い、その両方を兼ね備えているが為にこれまでマッドボアーズが手を出さなかったチームばかりである。
この間、猪狩が制裁した不良の関係者が彼に報復しようとする事もあった。
その中には猪狩より腕っぷしが強い者もいたがウィーゼランには到底勝てない為
猪狩はより一層気が大きくなっていった。
そんなある時…
モンスタートラックの前方に1台のデコトラが走っていた。
「邪魔ッスよ!!」
ウィーゼランの駆るモンスタートラックが強引にデコトラを抜かそうとするが…
「何だこの野郎!!」
運転手の怒号を中から響かせデコトラがモンスタートラックに車体を寄せて来た。
「まさか…あのトラックは…!?」
猪狩の顔に焦りが現れるのを余所にウィーゼランは
「やりやがったッスね…!」
ドガッ!!…ドォォン!!!
ウィーゼランのモンスタートラックが勢いよくデコトラに体当たりし、結果デコトラは激しく横転した。
「ウウウ…」
デコトラの中からは負傷した熊害の姿が見える。そう、デコトラは彼の会社、シシマル運送の車だったのだ。
「やっぱ熊害(クマ)さんの車じゃないですか、まずいですよ総長!!あの人は組でも”世話”になっている…」
焦りつつウィーゼランを制しようと試みる猪狩だったが…
「それがどうしたんスか?奴がオレに刃向かったのが悪いんス!」
悪びれる様子の無いウィーゼラン。
「だ、だとしても…」
尚もウィーゼランに意見しようとする猪狩に彼は強い口調で言う。
「いいッスか、マッドボアーズ時代のお前はマッドボアーズという括りならナンバー1ッスが
赤灯会とかいう組織じゃ下っ端どころか構成員ですらないじゃないッスか。
このマッドウィーゼルズは組とも何も関係ねぇしお前はナンバー2。
対して馬場は依然マッドボアーズ時代のお前と同じ立場みてぇじゃねえッスか。
馬場を見返すならこれぐらいの気概がねぇとダメっすよ。
もうオレ達に退路は無ぇッス、ただ進み続けるだけッス!!
それと何スか?オレに逆らうんスか!?それとも馬場を見返したくないんスか!?」
これを聞いた猪狩の胸中は馬場への敵愾心(てきがいしん)、ウィーゼランからの圧、
熊害を見捨てる事への恐怖で激しく揺れ動き、その結果…
「そうだ…”やる”しかねぇんだ…”やる”しか…ブヒ…ブヒヒヒヒヒヒヒ…!!
俺にはもう”後退”(バック)はねぇ…どこまでも突き進んでやるぜぇ~!!!!!!」
切羽詰まってヤケクソになった猪狩は正にブレーキが壊れた暴走車と化していくのだった…
7月28日。
その日、シェリーの基地で遂に第3のロックスーツ「高機動型」が完成した。
この報せを聞いた時、玲は真剣な眼差しでシェリーに頼み込む。
「博士、お願いです、私にも…ロックスーツを使わせてください!」
「!?有難い話だけど…とても危険よ?レイとガイ君にロックコマンダーを預けたのも当初は
飽くまでツルギ君のサポートの為だったのよ!?」
「少しでも早くデルタとデルタナンバーズを止めたい…その想いは私も神崎と桜井と同じです!お願いします!」
「…止めても無理のようね…それじゃ使い方を教えるわ」
玲の真剣さに根負けしたシェリーは感謝と申し訳なさを感じながら玲にロックスーツの使い方を教え始めた。
7月29日。
この日は玲の父方祖父にして汰威超組初代組長、沖藍武(たけし)の命日である。
都内某地の霊園には玲とその両親、汰威超現組長の志熊、その妻子である裕奈と美音、
同組若頭で玲の父、沖藍竜太の兄、強が墓参りに来ていた。
竜太は優子との結婚を機に組抜けをしておりその際志熊と真剣勝負をして両目に傷を付けている過去があるが彼等の間の因縁は時が解決していた。
「兄貴、見てくれ、この間の玲の写真!」
満面の笑みでスマホの玲の写真を強に見せる玲と似た髪色のオールバックでサングラスの男性が玲の父で元汰威超組の伝説のヤクザ、竜太である。
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「また始まったか、リュウの娘自慢がよ…でもその気持ち分かるぜ!」
喜々として写真を見つめる強。彼は玲を娘同然に可愛がっているからである。
「もうお父さんったら…」
そんな竜太と強に若干照れる玲。
「まあまあ、いいじゃない…お父さんとお爺ちゃんの事を考えれば…」
玲を優しく窘める茶色のロングヘアの穏やかそうな女性が玲の母、優子でこう見えて元自衛官である。
http://zeroi.stars.ne.jp/yuuko.png
「娘自慢ならワシも負けておらんぞ、こっちはプロのカメラマンを使って撮影したのだ…見よ!」
そこに志熊が乗っかって来る。
「こら、何対抗しようとしてるんだい」
それに裕奈がツッコミを入れる。
「ミネ!久しぶり!」
「お久しぶりです、レイ」
同年代である玲と美音も互いの近況を話し合った。
そこで玲は美音からシルキーガの事件の事を聞いたがその中で翔のエピソードも聞いた。
「それ以来彼の事が気になっているのです」
「鷹山翔…聞いた事ないけど会ってみたいなあ…
そういえば馬場に彼女が出来たみたいで相手は雷堂天音だって」
玲は翔に感心を示しつつ共通の知り合いである馬場の話題を出す。
「彼も隅に置けませんね…ところでレイはいつも話に聞く桜井さんという方とどこまで行きましたか?」
「え!?私と桜井はまだそんなんじゃないって!ただ中学と高校が同じだけだって!」
顔を赤らめ否定する玲だったが…
「『まだ』とは?」
美音は妖し気な表情で玲に問う。
「ミネってば!!」
困惑する玲ではあるが不快には感じていなかった…
そして一行は武の眠る墓へ…
お供え物や線香、柄杓での水掛けの後それぞれが目を閉じ合掌し胸中の想いを語る。
「親父、玲はこんなに大きくなったよ、いつも思うが親父に合わせてやりたかった…」
「お義父さん、駆け落ち同然で結婚した私が言うのも厚かましいかもしれませんが…これからも我が家を見守っていてください」
「先代、抗争での最期の勇姿…今でも目に焼き付いております」
「どうか『家族』の事を見守っとってください」
「お父様があれ程お慕いしている先代…私も出来れば会って見たかったです」
「親父、汰威超組は俺達に任せてゆっくり休んでな…」
竜太、優子、志熊、裕奈、美音、強が各々の思いの丈を伝える中、玲が一際長く手を合わせ
その想いを語る。
「(お爺ちゃん、今の東京ではね、未来から来たロボットが悪さをしていてね…
そのロボットはそれで母親同然の製作者を苦しめているの。
友達が変身してロボットの悪さを止める為に戦ってくれているんだけど…
今度私も戦いに加わる事にしたんだよ…)」
玲は自身が生まれる前に抗争で世を去った武に思う事があった。
両親や伯父から聞いた話によると武は早くに妻を亡くし男手1つで二人の息子を育て上げ組でも大きな戦力にした。
その片割れの竜太が抜けるのは組にとっては痛手だったが彼との約束を守り惜しみながらも送り出した。
その後も縁を切ったはずの竜太を武は匿名で結婚祝いを送ったり時折構成員に竜太夫妻の周辺を見張らせたりといつも気にかけていたようだ。
しかし敵対組織との抗争で武は組員を庇い凶弾に倒れたのである。
それは優子が玲を身ごもった時とほぼ同時だった。
言うまでもなく実行犯の半グレグループ「穢澱(エデン)」は現在では跡形もなく消滅している。
父の訃報を聞いた竜太は当時父の死は自分の組抜けの所為であると自分を責めたが
強、志熊等から父の死と彼の組抜けは無関係であり本当に父を思うなら
組抜けしてまで手に入れた家族を守り抜くべき、と手厳しく諭された。
この事で竜太はその後生まれて来た玲に過剰なまでの愛情を注ぐようになったという。
亡き父の分まで可愛がるように。
これを聞いた玲はこれまで過保護にも思える竜太を若干疎ましくすら思っていたが考えを改める。
同時に「親」を悲しませるデルタの事が理解できず、静かに憤りの念も抱いていたのだ。
「(私も…戦うから…!)」
一人決意する玲であった…
同日渋谷区の某所にて…
人気音楽ユニットTHREEーMIXが出るイベントの帰りで上機嫌な劾が前方を歩く不機嫌そうな柄の悪い男と出くわす。
男は無精ひげを生やし服装は紫地に黄色い英文字がプリントされたタンクトップ、腰で穿いているゆったりとしたジーパン、
厳つい腕時計、Tの文字の形をしたチャームのついたネックレス…というもの。
そして男は劾を視認すると声を掛ける。
「おいそこのデケーの…お前、もしかしなくても桜井か?」
「そ、そうだけど…もしかして馬場!?」
「そう、馬場だ馬場…随分久しぶりじゃねぇか」
この男こそ馬場丁司だった。
劾と馬場は長らく会っておらず、その為互いに名前を確認した後それを肯定したのだ。
馬場はそのまま劾に詰め寄り凄むような口調で言う。
「丁度いい、ちょっとばかり金貸してくんねーか?今凄く困っててよお…」
「いや、それは…」
「いいだろ、助けると思って…な!?」
「う…」
馬場は劾にカツアゲし、劾はその圧に負け馬場が自分の財布から金の一部を抜き取るのを許してしまう。
「ところで、何があったの?」
思わず問う劾。
何故なら馬場の様子は単にムシャクシャしているというより本当に困っているようにも見えたからだ。
それに対し馬場はため息交じりで応える。
「おめーに話してどうにかなる話じゃねーけどよ、同じ中学で猪狩っていたろ?」
「猪狩…あいつがどうかしたの?」
馬場の回答に対し劾は更に尋ねる。
「あいつのチームの勢いが増してな、俺の悪評を広めたりチームの奴等と大先輩を病院送りにしてやがんだよ…
金が必要ってのもその治療費の為でよ…
奴にはこっちから連絡取れねーが、さっき奴がご丁寧に決闘の日時と場所を教えて来たからよ、そん時ゃ焼きを入れてやる!!」
「ハハ…頑張ってね…」
憤慨する馬場を劾は苦笑いをしながら見送る。
7月30日。
夕暮れ時に基地で劾と会った玲が思わず問いかける。
「桜井、顔色悪いけど何かあったの?」
「それが…」
劾が事情を説明した結果…
「何大人しくお金渡してんの!?お人好しにも程があるよ!」
玲が叱責する。
「いや、実際怪我人出ているみたいだし…」
「本当にそうだとしてもいつもみたいにビビってたんでしょ、駄目じゃない!」
「ごめん…」
言い訳をする劾を玲が更に叱責し、結果劾が折れる。
そして玲が心配そうに言う。
「でも猪狩の噂は本当みたいで馬場と猪狩のチームのバックの組の事を考えてもこのままじゃ取り返しのつかない事になるね」
「只でさえデルタの事で大変なのに…デルタがこの事に首を突っ込んできたらもうカオスだよ…」
劾も心配そうに呟く。
「あり得る話だな、今の内に腹を括っておいた方がいいぞ」
そこに立ち聞きしていた剣が言う。
実際この猪狩の快進撃、もとい大暴れにはデルタナンバーズが関与している。
それにいち早く気付いた人物がいた。
それはマッドウィーゼルズに潜入していた翔である。
滅多にトラックから降りず喧嘩の時は早過ぎて撮影が困難な「総長」を翔は慎重に隙を伺い正体を確信し写真も撮影していた。
そして翔は猪狩に詰め寄る。
「猪狩の兄貴!まずいですぜ!今の総長はこれまで都内に現れたロボットの仲間じゃあねぇですかい!!」
「それがどうしたってんだ…真の”漢”にゃ人間か否かは関係無ぇ!!」
翔を一喝する猪狩。
「そういう問題じゃねぇんですわ!奴等は人間にとって脅威ってのもありやすしお互いのバックの組の事も考えると取り返しのつかない事態になりやすぜ!!
もし脅されているとしたらロックマンの兄貴達を頼るって手も…」
翔の懸命な説得に猪狩は聞く耳を持たない。
「う、うるせえ!!これは俺の”意志”(ハート)でやってんだ!!
クソババアを見返す唯一無二の”好機”(チャンス)なんだよおおおお!!!!」
「こうなったら…力づくでボ!?」
バキッ!ズザザザザザザ…
身を挺して猪狩を止めようとする翔を猪狩は殴り飛ばした。
「俺に勝てねぇ奴が総長を止められる訳ねーだろ!!止めたかったらロックマンでも何でも寄越すんだな!!
総長、こんな奴放っといて行きましょう」
「分かったッス、オレを止めたきゃロックマンを呼べばいいんスよ」
地に倒れ伏す翔を後にウィーゼラン並びに猪狩は走り去っていく。
敢えて翔を見逃すような真似をした猪狩とウィーゼランには何らかの意図があったようである。
「大変だ…」
身を起こした翔はすぐさま連絡を入れる。
「ん、早速か…」
剣のアカウントに翔からの連絡が入った。
「君は…」
剣は翔の事に気付いた。
「神崎、知ってるの?この子は僕も何度か見てるけど…」
劾も気付いたようである。
画面に映る翔は必死で説明する。
「ロックマンの兄貴達!例のロボットがまた現れやした!
奴は暴走族の俺の兄貴分を従えて人間の暴走族を襲撃しとります!
それと…その兄貴はロボットをそそのかして恐ろしい事を企んどります!
お願いです、ロボットを倒して兄貴を止めて下せえ!!」
「神崎、ちょっといい?その暴走族のチーム名を聞いてくれる?」
「ああ…」
玲が耳打ちして剣は小声で応じる。
そして剣はチーム名を確認する。
「その暴走族のチーム名は…マッドボアーズで間違いないんだな?」
すると翔は応える。
「合っとりますが…それは前の名前ですわ。今はマッドウィーゼルズだそうですぜ」
「やはりか…分かった」
通信を切った剣はシェリーに頼む。
「博士、今のデルタナンバーズの居場所を割り出してくれ!」
「大変!馬場に連絡しなきゃ!!」
そう言って玲はスマホで馬場と通話を始める。
「猪狩の挑発に乗っちゃダメ!」
「ああ!?俺に逃げろってか!?」
馬場が凄む。
因みに馬場は飽くまで堅気である玲とは対等に接しているのだ。
「そうじゃなくて、今の猪狩のチームの総長は一連の事件を起こしているロボットなの!
あいつらには人間じゃ太刀打ちできないんだよ!」
「それで、ロックマンに任せろってか…」
どこか不服そうな馬場。
一方シェリーはウィーゼラン等の現在地を割り出していた。
映像を見るとウィーゼランのモンスタートラックが猪狩等のバイクを従え首都高を爆走している。
「うーん、人間の暴走族をどうするか…」
劾が思い悩んでいると剣が口を開く。
「シルキーガの特殊武器『ストリングバインダー』が使えないか?」
「そうか!それで人間は固定してトラックの方に集中して…」
これを聞いていた玲は何かを思いつく。
「ちょっと待って、いい方法があるの…待っててね」
玲は剣と劾にある提案をして彼等がそれを快諾すると通話を続ける。
「これからロックマン達が猪狩をロボットから引き離すから…それが終わったら連絡するね」
「ああ…待ってるぜ!!」
逸る気持ちを抑え、馬場が頷く。
かくして剣と劾が出撃した。
二人はバイク型支援メカ「ロックチェイサー」に搭乗し首都高を駆け抜けていく。
程なくして山の手トンネルにてターゲットを視認。
「いた…!本当にデカいトラックだな…」
「人間の数も思ったより多いね…でも、やるしかない…!」
ロックマン達を視認したマッドウィーゼルズのメンバーは…
「ろ…ロックマンが現れやがった…!どうする…ロックマンとやれってのか…!?」
「五里石の兄貴の恩もあるし無理でヤンス~っ!!」
「いや、総長に刃向かうなら俺達の敵って事になるぜ…」
「オラは降りるでゴンス!!」
パニック状態になり戦意を喪失する者もいればヤケになってロックマン達に挑む者もいる。
「立ち向かって来ない奴は無視だ無視!向かってくる奴だけやるぞ!!」
「ああ、分かった…」
「「ストリングバインダー!!」」
シュルルルル!!!!
剣と劾はシルキーガの特殊武器「ストリングバインダー」でマッドウィーゼルズの構成員を
次から次へとバイクごと糸でグルグル巻きにして動きを封じていく。
「始まったみたいね…じゃあ私も…」
この様子を基地から見張っていた玲は新たなロックスーツを起動し始める。
まず玲はスマホの起動画面に現れた今では縦3列、横5列の15個の点の内、元からあった左右両端の列を除く9個の点を
上段左→上段真ん中→上段右→中段真ん中→下段左→下段真ん中→下段右の順で指でなぞる。
パラァン!という操作音が鳴ると玲はスマホをロックコマンダーに差し込む。
すると「レディ」という音声がスマホより発せられ次の瞬間3DCGのワイヤーフレームのような光が玲の身体を包み
光は強く輝いた後玲の前面から消えていく。
光が収まった時には玲は「高機動型ロックスーツ」を纏っていた。
スーツの外観は赤が基調であり肩パーツは白く丸みを帯びておりメットの形状は後ろに流れるような鋭角的なもので玲の後ろ髪が露出している。
武装はナイフに変形する銃型の武器「ロックナイフガン」である。
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スーツの起動が終わるや否や玲は自身を劾の居場所に転送する。
手筈は以下の通りである。
ロックチェイサーは現時点では2台しかない為最初に剣と劾がロックチェイサーで出撃し先程のようにマッドウィーゼルズの構成員を捕縛していく。
その後玲が剣と劾のいる地点に自らを転送するのだが剣と劾はロックチェイサーに乗っている為すぐ置いてけぼりになる。
しかしそれは問題ない。
二人が通った後には捕縛されたマッドウィーゼルズがいるからである。
「結構離脱したみたいだね…それでも多いけど…ね!」
「な、何だ、赤いロックマン!?」
「ロックマンは二人だけじゃなかったのか!?」
玲はバイクに乗った状態のままの彼等を邪魔にならない場所に移動させるべく
バイクごと抱きかかえダッシュジャンプで地べたに横たえていく。
人目にもつく場所でぐるぐる巻きの状態でバイクごと地べたに横たえるのは玲なりの「お仕置き」であった。
「お~い、糸も何とかしてくれよぉ~!」
玲が去った後マッドウィーゼルズ構成員の嘆き声が空しく響く。
彼等は暫しの間バイクごと縛られた状態で放置されることとなる。
後に「救助」が来るまでは。
一方剣と劾は猪狩を視認した。
「ロックマン達、アンタ等に”恨み”は無ぇがこれも総長の為…
そして積年の俺の”夢”の為…邪魔するってんなら受けて立…」
「「ストリングバインダー!!」」
シュルルルルルルルル!!
成す術もなく捕縛された猪狩。
「目を覚ますんだ、猪狩…」
モンスタートラックの追跡を続けながら劾が呟く。
その口調には怒りと悲しみがこもっていた。
程なくしてそこに玲が現れる。
「な、もう一人のロックマンだと!?」
「最後にして、本命ね…」
玲はこれまで同様猪狩をバイクごと抱きかかえダッシュジャンプや壁蹴りで移動するが
向かった先はこれまで同様の屋外ではなく廃ビルである。
「このビルはあの…偶然って恐ろしいなぁ…」
呟きながら玲は廃ビルに入っていき猪狩を横たえる。
「アンタには、ケジメをつけて貰うんだから!」
そう言い放って玲は立ち去った。
「おい!!何のつもりだ!?一人にしねぇでくれよ!!総長~!!!!!」
廃ビルで一人喚き散らす猪狩。
一方で玲は馬場に連絡する。
「ロックマンが猪狩を引き離したよ!アイツは今、『我瑠磨ビル』にいる!!」
「そうか、サンキュー!」
馬場は通話を切る。
その口調は闘志に溢れていた。
続いて馬場はハザードベアの構成員達並びに志熊とこの情報を共有する。
報せを聞いた志熊は何者かに電話をかける。
「赤灯の、例の決闘の時間と場所が変更されたぞ。
場所は我瑠磨ビル、時間は『馬場が到着し次第』だそうだ」
連絡先の人物がそれに応じる。
「了解だ、すぐに下の奴等にも伝えておくぜ」
志熊の電話の相手は劾より背が高く長い前髪をオールバックにし、片眼には眼帯で口髭を生やした厳つさと不気味さを備えた男…
赤灯会二代目組長の赤井刃(あかい じん)である。
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両端に刃のついた鎌を操る狂人で鉄火場ではその愛用の鎌で血の雨を降らせてきた。
「我瑠磨ビル…奇妙な縁を感じるわ…またあの場所に来る事になろうとはな…」
志熊は一人呟く。
そう、我瑠磨ビルとは志熊と竜太が組抜けを掛けて決闘した場所だったのだ。
そして志熊、赤井はそれぞれの組の構成員にもその情報を共有する。
それが終わると各自ヘリ、車、バイク等様々な手段で我瑠磨ビルへと向かっていく。
その頃剣と劾は周辺のマッドウィーゼルズ構成員が引きはがされただ1台となったモンスタートラックを追跡していた。
「ロックマン共め、人間の敵相手に上手くやりやがったッスね…
こうなったらこいつ等の出番ッスよ~…行ってくるッス、ホイーリー!」
ポチッ!
ウィーゼランが操縦席のスイッチの1つを押した。
ゴゴゴゴゴ…ゴインゴインゴイン!
モンスタートラックの最後尾のトレーラーの扉が開き中から夥しい数のタイヤが次々と出現した。
タイヤはメカニロイド「ホイーリー」であり、中央には顔があり転がるものもいればバウンドするものもいる。
「それがどうした!」
「全部…撃ち落とす!」
剣と劾はあっという間にそれぞれの武器でホイーリーを全滅させる。
「それなら…喰らうッス!」
ポチッ!
ガタッ!
ウィーゼランが別のスイッチを押すとトレーラーが切り離された。
二人に迫る巨大なトレーラー。
「桜井!」「ああ!」
ズドドドドドドドドドド!!!
剣の合図に劾が応じると劾はトレーラーに向かってバスターを連射。
その結果トレーラーが凹みながら剣と劾から見て後方に押されていく。
それでもロックチェイサーは高速で走り続けているのでトレーラーとの距離は縮まっていくが…
既に剣がロックブレードのエネルギーをチャージしていた。
トレーラーが正に二人に接触せんとする瞬間…
ズバシュ!!
トレーラーは両断され剣と劾の後方へとバウンドしながら飛んでいった。
「やるッスね…お次は、オートチェイサーッス!」
ポチッ!
ブォンブォンブォン!!!!
ウィーゼランが更に別のスイッチを押すとこれまで中央だったトレーラーの扉が開き中から何台ものバイクが出現する。
これらのバイクは実はメカニロイド「オートチェイサー」で操縦者がいなくても自動で走行が可能である。
「未来の自動運転ってのは進んでるんだな…」
「神崎、来るよ…!」
剣が皮肉を言うと二人はオートチェイサーを迎え撃ち、瞬く間に全滅させる。
「『デルタアタッカーズ』じゃ相手にならないッスか…」
ポチッ!
ウィーゼランは一言呟くと先程トレーラーを切り離した時と同じスイッチを押す。
すると同様にトレーラーが切り離され二人を襲うもやはりあっけなく破壊される。
「こうなったら…お前の出番ッス、『ロールローダー』!!」
ゴゴゴゴゴ…ドォン!!
「スッゾラー!!」
ウィーゼランが更に別のスイッチを押すと先頭のトレーラーの中からトレーラーいっぱいの巨体を持ち、
不良、暴走族のバイク、そしてロードローラーを合わせたような姿のメカニロイド「ロールローダー」が現れた。
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「こいつは…一筋縄では行かなそうだな…」
「…速い!!」
重量に反し高速で突っ込んでくるロールローダーを二人は何とか躱す。
「ゴラアアアアアアア!!!!!!!」
するとロールローダーは即座に方向転換し再度突っ込んでくる。
「当たるか!」
「喰らえ!!」
突っ込んでくるロールローダーに剣と劾が反撃を試みる。
結果劾のバスターはロールローダーのローラーで阻まれ側面からの剣の斬撃はダメージを与えていたもののかすり傷に過ぎなかった。
その後も突っ込んでくるロールローダーに剣と劾が反撃する流れが続いたがその際ローラーには剣の攻撃でもダメージが入らなかった。
「桜井、攻撃するなら後ろだ!」
「ああ!」
剣と劾はロールローダーが通り抜け方向転換するまでの間に出来るだけ候補を攻撃しようとするが…
パラリラパラリラ!!!!!
何とロールローダーは方向転換する事なく後部のラッパのような武装から音波攻撃を繰り出してきたのだ。
「く…感覚が…!!」
「だったら…これだ!」
剣と劾はこれにより平衡感覚が麻痺し体の内側から壊されていくようなダメージを受け始めるが
劾がこれに耐えつつシールドショットを展開。
するとシールドで音波が跳ね返されロールローダーに当たり始める。
しかしその音波でロールローダーが自壊する事はなく、それどころか音波の威力を増幅させ再度劾を襲う。
それもやはりシールドショットで反射されるがやはり増幅させられて返ってくる。
その都度劾はダメージこそ受けないものの攻撃の手応えは感じ取っていた。
「シールドもいつまで持つか分からないな…早めに決着を付けよう!!」
「ああ、十分距離が縮まった時にチャージブレードを叩き込んでやる!」
シールドショットを盾にロールローダーとの距離を詰めていく剣と劾。
そしていよいよ剣が攻撃を繰り出そうとした時…
「クルルァア!!!」
ロールローダーが突如方向転換し突っ込んできた。
しかし剣は冷静だった。
何と剣はチャージ攻撃を放つ事なくブレードの先端を地面に当てて
突っ込んでくるロールローダーのローラーを滑り込ませるとその瞬間てこの原理で投げたのだ。
ドォォン!!
弧を描いて飛んだロールローダーは逆さまになって地面に衝突。
落下の衝撃とその重量故地面にはまり身動きが取れなくなっている。
それを見逃さず剣はブレードのエネルギーをチャージした状態でロールローダーに迫る。
「止めだ!!」
ズバァン!!
剣はロールローダーの分厚い装甲に覆われていない底面にチャージブレードを見舞う。
「ゴ…ラ…」
それは決定打となりロールローダーは機能停止した。
「流石ッスね…これなら…どうッスか!?」
ポチッ!ポチッ!!
ウィーゼランはこれまでとは更に別のスイッチを続けざまに2回連続で押す。
ウィィィィン…
パカッ!
これに応じてトレーラーの右側面の一部がせり出して中からミサイルランチャーが現れ、左側面にあるハッチが開いてガトリング砲が現れる。
「「!!!!!!」」
剣と劾は身構える。
ボヒュボヒュボヒュボヒュボヒュ!!!
バララララララララ!!
次の刹那二人を襲うはミサイルとエネルギー弾の雨あられである。
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ミサイルは様々な軌道を描き二人に迫りビームガトリング砲は剣と劾自身でなく彼等の付近のアスファルトを狙ってその破片を飛ばしてくる。
剣と劾は破片を回避しつつ、剣は右側に、劾は左側に移動。
それぞれ武器エネルギーをチャージし、剣はロックブレードの側面でミサイルを防ぎつつ、劾はシールドショットでエネルギー弾を防ぎつつ
アクセル全開で一気にトレーラーとの距離を詰める。
充分に距離が縮まった瞬間剣はチャージブレードをミサイルランチャーに、
劾はバスターのダイヤルを素早く回しチャージショットをビームガトリング砲に見舞う。
しかしそれは決定打にはならなかった為二人は一度距離を取って同様の攻撃を数回繰り返す。
ボン!ボン!
そして遂にトレーラーの両武装が爆発を起こす。
爆風の影響がトラクター部分にも及び始めた為ウィーゼランはこれまで同様トレーラーを切り離すもやはり同様に対処される。
とうとうトラクター部分だけになったモンスタートラック。
「これで…最後の最後っスよ!!」
ポチッ!
ウィィィィン…
ウィーゼランが最後のスイッチを押すとトラクター部分の上部からビーム砲が現れる。
ズドッ!ズドッ!ズドッ!!
ビーム砲からの攻撃が剣と劾を交互に襲う。
劾が何とかこれを回避しビーム砲にチャージショットを喰らわせていくと先程のトレーラーの爆発の影響もあってかビーム砲は呆気なく大破。
次の瞬間連鎖的に爆発を起こしモンスタートラックは炎に包まれる。
それでもモンスタートラックは止まらない。
「まだ止まらないのか…!」「桜井、タイヤだ!タイヤを狙うぞ!!」
焦りを見せ始める劾に剣は指示を出す。
「止まれえええええええええええええ!!」
「いい加減、終わりにしよう…ぜ!!」
炎上するモンスタートラックに距離を詰め懸命にタイヤを攻撃する剣と劾。
暫くすると効果が次第に現れていき、モンスタートラックの走行は次第に不安定になっていく。
ドガァァァァン!!!!!
そして遂に、代々木公園を横断する都道413号線にて公園に突っ込んで木に衝突し、爆発炎上したのだ。
「手間かけさせやがって…」
「これだけの爆発…流石に『総長』とかいう奴もタダでは済まない…よな!?」
ロックチェイサーを転送で基地に戻した剣と劾が呟いていると突如シェリーから通信が。
「ツルギ君!ガイ君!まだエネルギー反応が消えてないわ!気を付けて…!」
「「了解(だ)(です)!!」」
剣と劾が警戒していると丁度頭上から声がする。
「流石デルタナンバーズ3体を殺(や)っただけの事はあるッスね~」
「「!!」」
剣と劾が声のした方向を見上げるとそこには木の枝の上に佇むウィーゼランがいた。
彼はマッドボアーズを傘下に入れて以来全身を布で覆っていたが今は爆発の影響でその布は燃えている。
布は燃えていくもののウィーゼラン自身はその影響を受けない。
やがて布は全て灰となって散り下からの炎と空からの月光に照らされたウィーゼランが二人の前にその全貌を現した。
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「マッドウィーゼルズの総長で、デルタナンバーズか…!」
「どうせまたデルタから与えられた偏った知識で人間全体を色眼鏡で見ているんだろう!?」
剣と劾の問いかけにウィーゼランは応じる。
「そうともよ、オレはデルタナンバーズの1体にしてマッドウィーゼルズ総長…スプリント・ウィーゼランッス!!
青い方が言ってる事は半分当たりで半分外れッスね…
デルタは愚かな人間の不良を駆除するように言ってきたッスがオレは不良の世界に興味が湧いてきて…この時代の不良界で天下取る事にしたんスわ!!」
「何…!?」
「不良界で…天下…!?」
これまでとは違うノリの回答に剣と劾は当惑する。
「おう、社会のルールに縛られず舎弟共引き連れて街をかっ飛ばして、喧嘩して、チームデカくして…硬派でカッコいいじゃないッスか!!」
ウィーゼランは豪語する。
「ケンカ…そう言えば馬場のチームの奴等は病院送りにされたとは聞いてたけど
殺されたとは聞いてないな…」
熊害の件の詳細を聞いていない劾は一瞬だけもしかしたら説得できるのでは、と思い始めるが…
「ああ、今までは飽くまでケンカだったッスから”コレ”は封じていたっスが
こっからは”命”(タマ)の取り合い…
お前等とは最初から殺り合うつもりッス…仲間の仇っスからね…!!」
ウィーゼランがそう言いながら両前腕から青白い光の刃「フラッシャーブレード」を出現させる。
先程ウィーゼランが通報する可能性のあった翔を見逃したのはロックマンと戦う為でもあったのだ。
獰猛な肉食獣さながらの殺気が向けられ、剣と劾は覚悟を決める…
※脱字がありましたので再投稿です。
その頃、我瑠磨ビルでは…
「総長…戻ってきてくださいよ…俺はここですぜ…」
猪狩は依然ぐるぐる巻きの状態でバイクごと床に横たえられている。
ザッザッザッザッザッ…
「!!」
その時、遠くから大勢の足音がする。
ギギギギギ…
程なくしてビルの扉が開き足音の主達が猪狩の前に現れる。
「あ、”終わっ”(ジエンド)ったな…」
思わず一言漏らす猪狩。
彼の前に現れたのは汰威超組、赤灯会両組織の組長並びに幹部、組員達、そして彼等の関係者達だった。
この中には天音、翔、美音もいる。
「私がアンタの女とか有り得ないんだけどー!?
何度も告る度に振られたの忘れた訳!?」
「ロボットの下に付くとは人間の恥さらしが!!」
「ロックマンの兄貴達に盾突くたあ太ぇ奴だなオイ!!」
天音を始めとしてこの場の一同が猪狩に罵詈雑言を浴びせるがそれを制するように馬場が前に出る。
そして静かながらも怒りのこもった口調で言い始める。
「猪狩…前々からゲスなところがあるとは思ってたが今回は流石に幻滅したぜ…
あん時の氷藤並のクズに落ちぶれやがってよ…」
ス…
馬場は猪狩に近付くと懐から何かを出した。
それは鈍い光を放つナイフだった。
「…刺せよ!!”覚悟”は決まったからよ!!さあ一思いにブスッと行けよ!!」
「………」
グッグッグッグッグッ…
怒鳴る猪狩を余所に馬場はナイフの刃を猪狩を縛る糸に押し当ててのこぎりのように往復させ始める。
「”嬲り殺し”かよ…いいぜそれでもよぉ!!”仇”は総長が取ってくれるからよぉ!!」
「…中々切れねぇな…」
「は…?」
馬場の放った一言に猪狩は呆気にとられる。
「馬場、恐らくその糸の弱点は熱ですよ」
そこで美音が馬場に糸の事を教える。
ロックマンが特殊武器で猪狩等を拘束したという情報はこの場の一同で共有済みであり、
実際にシルキーガ事件に巻き込まれた美音はこの糸が事件当時に自分達を拘束した糸と同質のものと推察したのである。
「感謝します、お嬢!」
そう言って馬場はライターで猪狩を縛る糸を焼き切る。
「何のつもりだ、”お情け”でもかけたのか!?」
思わず問いかける猪狩に馬場は応える。
「これは決闘だろ!?縛られてる奴を一方的に刺したんじゃ意味ねーだろうが…
それに…お前じゃあるまいしな!」
更に馬場はこの馬場はこの場の一同に向き直り高らかに言い放つ。
「汰威超・赤灯両家の皆々様…これは俺、馬場丁司とこの猪狩進との決闘に付き
何人たりとも手出し無用でお願い申す!
汰威超はハザードベアのケツ持ち、赤灯はマッドボアーズのケツ持ち…
故にこれは子供の喧嘩!
子供の喧嘩に親が出るというみっともねぇ真似をしようとするモンはこん中にはいねぇでしょう!?」
馬場は不敵な笑みを浮かべながらこの場の一同を見渡す。
「案ずるでない、馬場…元よりそのつもりよ」
「俺も同じだ。…猪狩、腹括れや」
志熊が快諾し、赤井もそれに続きつつ猪狩に言い放つ。
「それでは男馬場丁司、この決闘にてケジメ取って参ります!」
馬場は一礼すると猪狩に向き直る。
「猪狩…テメーは今回色々卑怯な真似してきたけどよ…
俺は卑怯な手は使わずその上で徹底的に叩きのめしてやるよ…
そんなに俺に勝ちたいか?そんなに俺が妬ましいのか?
だったらその気持ちを全部俺にぶつけて見やがれ!!」
馬場の怒号に猪狩も怒号で返す。
「ケッ、どこまでもムカつく野郎だぜ…
本当はテメーの相手は総長がする事になってたんだがテメーとやり合えるこの状況は逆に有難いぐらいだぜ…!
待ってたぜ、この”瞬間”(トキ)をよ…!!」
猪狩は本心では他の誰かではなく自分で馬場を倒したかった。
そしてこれも同じく猪狩の本心であるが彼はロックマンに頼りたかった。
何故なら熊害の件で自分が利用しようとしていたウィーゼランは自分の手に余る危険な存在だと思い知ったからである。
このままだと彼の一線を超えた悪事に加担させられる未来が自身に訪れると察した猪狩は
ウィーゼランと理由こそ違えど翔を見逃したのである。
当然これは本人も認めない深層心理である。
ともあれ猪狩とウィーゼランのどちらか一方でも翔を「危険視」していた場合翔は無事では済まなかっただろう。
そして馬場と猪狩は互いに向かって駆け出した…
一方剣と劾はウィーゼランの高速戦闘に翻弄されていた。
「速い…!速過ぎる…!!」
「しかもこの環境は…色々とまずいぞ…!」
現在剣と劾のいる場所は木々の生い茂る公園を横断する都道413号線上で、すぐ近くに歩道橋もある。
ウィーゼランはその圧倒的脚力を活かし木々の枝や幹、歩道橋の側面、信号機などを足場に跳ね回り縦横無尽に攻撃を仕掛けてくる。
その有様は鏡から鏡に乱反射する光や壁から壁に跳ね返る弾丸のようである。
「ここは正にオレの絶対領域ッス!!この勝負貰ったッスよ~!」
ウィーゼランはボルテージを上げていき剣と劾に飛び蹴りやフラッシャーブレードの斬撃を喰らわせていく。
「…そこだ!!」バシュッ!!
劾がウィーゼランの動きを予測した上でバスターを放つも…
「だから当たらないッス~!!」
圧倒的スピードのウィーゼランを捕らえるに至らない。
「俺もいるぞ!!」
剣がロックブレードで斬りかかるもフラッシャーブレードで阻まれる。
力では剣が上回っていたのでこの互いの刃の押し合いでは剣が押し始めるがそれも一瞬。
ウィーゼランがバックステップをする事で剣は前のめりになり一瞬体制を崩す。
それ以降もウィーゼランは地の利を生かしヒット&アウェイで剣と劾を追い詰めていく。
そして…
「さあ時間も押してるッス、そろそろ終わらせるッスよ…フラッシャーブロウ!!」
ブンッ!
ウィーゼランが腕を振るうと前腕部の光の刃が分離して飛来し剣を襲う。
「危ない!!」
ザンッ!!
咄嗟に回避を試みるも飛んできた光の刃は剣のスーツに深い裂傷を刻む。
「神崎ーっ!!」
劾の絶叫が響き渡る。
剣のスーツは内部メカが露出した他、傷の辺りがスパークしており煙も噴いている。
更にはスーツの機能が麻痺して重いロックブレードを持てなくなって落としてしまう。
「止めっス…!」
この状態の剣に襲い掛かるウィーゼラン。
「く…間に合うか…!?」
バスターを構える劾。
その時だった。
ガキン!!
ウィーゼランと剣の間に何者かが割って入ってウィーゼランの攻撃を食い止めたのだ。
言うまでもなくその人物は高機動型ロックスーツを身に纏った玲だった。
玲はナイフ形態のロックナイフ・ガンでウィーゼランのフラッシャーブレードを受け止めており、互いの刃の接触面が火花を散らしている。
その直後両者は反動で弾かれ離れた位置に着地する。
「「沖藍!!」」
「間一髪だったね…バトンタッチだよ、桜井、神崎!」
剣と劾に一声掛けると玲は改めてウィーゼランと対峙する。
「何スか!?もう一人のロックマンッスか!?」
「その通りよ。そういうアンタは猪狩に利用されてるデルタナンバーズだね?」
ウィーゼランの問いかけに玲は応えては問い返す。
「おう、オレこそがデルタナンバーズの一角にしてマッドウィーゼルズ総長、
スプリント・ウィーゼランッス!!
それと…猪狩はこの時代に来たオレに良くしてくれた可愛い舎弟…あいつはそんな奴じゃないッスよ!!」
「見捨てておいて…よく言うぜ…」
ウィーゼランの言葉を受け剣が声を絞り出すように言う。
「あれはお前等との戦いでの流れ弾からアイツ等を守る為に仕方のなかった事っスよ…!
それにこの代々木公園ではこれから”本命の決闘”が待っているッスからね…!」
「本命だって?」
今度は劾がウィーゼランに問う。
「オウ、オレは元々ここで猪狩や罪の無い人間をいじめるドクズ…馬場丁司を決闘でシメる事になってるんスわ…」
「馬場が…ドクズ!?」
玲の問いかけにウィーゼランは憎々し気に語る。
「何でも奴は猪狩の女を横取りしたり罪のない人間に対して殴られ屋の強要、
クソしてる映像をネットに流す、画鋲椅子と画鋲シューズの強要、
殺人犯の加害者家族やロリコンを名乗らせる…とかいうクズの中のクズみたいッス…
そんな輩このオレが許す訳には行かないッスよ!!」
「「「あ…」」」
剣、劾、玲は何かを察した。
最初に口を開いたのは玲だった。
「アンタにその事を吹き込んだ猪狩はね…自分の私怨の為に嘘八百を並べてアンタを利用しようとしてる大・馬・鹿だから!!!
いえ、猪狩だけじゃない…何がしたいのか分からないけどアンタ達デルタナンバーズに
人間の悪い面だけ教えては攻撃させているデルタも同じだから!!
アンタも含めたデルタナンバーズがこれ以上悪事を働くのは私達ロックマンが許さないんだからね!!!」
「……」
玲のあまりの剣幕に現在は自分が叱責の対象になっていない劾が思わずたじろぐ。
しかしウィーゼランは全く気圧される事なくフラッシャーブレードを出現させた両腕を構え玲に言い放つ。
「御託はいいからさっさと掛かって来るッス!デルタまでバカにしやがって、頭に来たッスよ~っ!!」
「必ず…止めてみせる…!」
玲も負けじとロックナイフ・ガンを構える。
そして両者の間で展開される超高速戦闘。
樹上で、広場で、競技場で、池の上で、赤とクルミ色の2つの烈風が吹き荒れ互いがぶつかり合う時には青い火花が散る。
この光景に剣と劾は思わず見とれそうになる。
「は、速いッス…!!このオレと互角以上!?」
「(す、凄い…相手の動きや地形、状況がすぐに把握できる…!
これも…このスーツの力…?」
スピードでウィーゼランに匹敵あるいは凌駕するだけでなく、現在玲は
自分と相手の位置関係や周囲に何があるか、何が起こっているかなどを瞬時に把握して
その都度最適解を導き出す事が可能となっている…即ち頭の回転が速くなっているのである。
この為より的確にウィーゼランに攻撃を当てる事も可能となっており
近接戦闘時はロックナイフ・ガンをナイフ形態にしてそれなりのダメージを与えていき、
遠距離戦闘時では銃形態にして狙撃して1発の威力は低くても確実にウィーゼランを削っていく。
「いや~面白いッス!!人間相手じゃ全っ然張り合い無かったッスからね~!
オレはこういうのを求めてたんスわ!!」
しかしウィーゼランも負けじと玲に食らいつきその都度反撃を見舞う。
そんなある時だった。
「そこッス!」
「甘い!!」
ザンッ!!
迫り来るウィーゼランの右腕を玲が斬り上げて切断した。
切断された腕は宙を舞いフラッシャーブレードが消失する。
「やってくれたッスね~!なら…残った腕の攻撃力を両腕分にするまでッス!!」
ブゥン…
ウィーゼランの左腕のフラッシャーブレードが幅、長さ共に増大し輝きも増した。
本人が先程言ったように両腕に使う分のエネルギーを左腕に集中させたのだ。
「へえ、面白いじゃない…」
今のフラッシャーブレードが現すかのような殺気を向けられながらも
玲は一筋の汗を流しつつ笑みを浮かべていた…
その頃我瑠磨ビルでも死闘が繰り広げられていた。
「オラァ!!」「ブヒィ!!」
ゴッ!ガッ!
「これが高校生の戦いなのか?」
「同じ歳の頃の俺より強いかもしれんな…」
馬場と猪狩の決闘にこの場の一同は息を呑む。
本来の実力差もあり次第に押されていく猪狩だったがしぶとく食らいつき
ある時感極まって思いの丈をぶちまけ始める。
「クソババア…!俺は!!ずっと…テメーが…”羨ましかった”!!
顔も勉強も敵わねぇ!!
唯一自慢のケンカでも勝った事は無ぇ!!
”悪人”(ワル)にしか手を出さねぇ俺が”一般人”(パンピー)に避けられてんのに
”一般人”にも手を出すテメーはハブられる事が無ぇ!!
そんで…遂に天音ちゃんもテメーのもんになっちまいやがった!!」
怒号と共に放たれる猪狩の拳をいなし続ける馬場だったがとうとう顔面に1発喰らってしまう。
しかし食らった箇所は額であり馬場は耐えきっていた。
そして自身の額を捕らえた猪狩の腕に手を添えると馬場は先程の猪狩の言葉に応え始める。
「お前が俺に嫉妬してんのは前々から知ってたよ…
だから俺の悪評流した事は百歩譲って大目に見てやるよ…
だがなあ!!!」「ブヒ!!」
ズダァン!!
馬場が猪狩に一本背負いを決めた。
即座に馬場は猪狩に馬乗りになって拳を固める。
「俺の仲間に手ぇ出した事は…絶対ぇ許せねぇんだよ…!!
これは蜂塚(はちづか)の分!!」
ゴッ!!「ブヒ!」
馬場の渾身の拳が猪狩の顔面に炸裂する。
「これは棘輪(とげわ)の分!」ガッ!!「ブヒ!」
病院送りにされた舎弟の名前を叫びつつ馬場の殴打は尚も続く。
「これは楼戸(ろうど)の分!」ドッ!!「ブヒ!」
「これは土坊(どぼう)の分!」ベキッ!「ブヒ!」
「これは蛇民賀(じゃみんが)の分!」バキッ!「ブヒ!」
「これは暮屋(くらしや)の分!」ズドッ!「ブヒ!」
「これは願母(がんぼ)の分!」ガン!「ブヒ!」
「これは梵日(ぼんび)の分!」ドカッ!「ブヒ!」
「そしてこれは…初代(熊害)の分だぁっ!!」ドゴッ!!!
「(”重い”…そして…”熱い”…ぜ…)」
ガクッ…
文字通り顔面がボコボコになった猪狩は遂に意識を手放した。
「押忍!!」
馬場はこの場の一同に向かって一礼する。
玲とウィーゼランの死闘にも終局が迫っていた。
二人の戦闘は代々木公園の身に留まらず明治神宮にまでなだれ込んでいた。
そんな中玲がふとウィーゼランに尋ねる。
「ねえ、どうしてデルタは人間を色眼鏡で見たり、アンタ達をけしかけようとしているの?」
その口調には敵意とは異なる強い意志が宿っている。
「それはデルタが世の中から悪を排除し幸せな世界を実現させる為っス。
オレ達レプリロイドはその目的の為に人間の敵として送り込まれたんスわ」
「…!?待って、おかしくない?レプリロイドが人間の敵?普通逆じゃない!?」
ウィーゼランの答に玲は違和感を抱く。
「ま、オレは不良ッスからそんな任務なんかにゃ興味がないし…不良の世界で天下取る道を選んだんスけどね」
ウィーゼランの返答に対し玲は憤りを露わにする。
「アンタが従えていたチームの人達、みんな怯えてたよ…
どうせ力で無理矢理脅してたんでしょ!?」
「それは…」
思い当たる節があるウィーゼランは言葉に詰まる。
「いい!?力による解決は時と場合によっては必要かもしれないけど、
それだけじゃ人の上に立つ資格なんて無いんだからね!!」
玲の言葉はデルタにも向けられた言葉である。
事実汰威超組も仁義外れな輩には暴力を行使する反面地域の人々を恐怖で支配しているという事は無く
志熊、強、幹部達も舎弟達からの人望は厚い。
その傘下にいる馬場も同じで自分がちょっかいを出した生徒に飲食物を奢ったり
なにか困っている生徒がいたら面倒を見たりといった行動も見られ
いじめなど以ての外であった為に周囲から疎外される事はなかったのだ。
「ゴチャゴチャうるさいッス!!結局最後には力が物を言うッス~!!」
しかしウィーゼランはムキになって玲に迫る。
「馬鹿…!」
そんなウィーゼランを玲は迎え撃つ。
互いのボルテージは極限まで高まった時、両者は明治神宮の鳥居の上の両端に立ち、睨み合う。
「これで…決める!!」
「かかって来るッス!!」
ダッ!!
暫しの静寂の後互いが互いに向かって駆け出し、交差する時それぞれの刃を振るう。
スタッ!
その後玲とウィーゼランは先程とは互いに入れ替わった位置に着地する。
「何…ス…か…当たった…筈なのに…全く…手応えが…!?」
ウィーゼランは玲を確かに斬り付けていたと思い込んでいたが
その瞬間は影を切るかのように全く手応えが無かったことに違和感を感じていた。
次の瞬間…
ブシュッ!!
「な…に…」
ウィーゼランのボディに深い裂傷が入る。
玲はフラッシャーブレードが振るわれるギリギリの瞬間まで引き付けてから最小限の動きで回避し、すかさず反撃したのだ。
傷は動力炉に達し勝敗は決した。
「オレの…負けッス…赤い…ロックマン…」
そう言い残しうなだれて崩れ落ちるウィーゼランのボディを玲が駆け寄って受け止めた。
「博士、デルタナンバーズの撃破、完了しました。今からボディを送ります」
玲はシェリーに通信を入れ、ウィーゼランのボディを転送させる。
「ご苦労様、レイ。彼も修理しなきゃね」
シェリーが感謝を伝える。
「博士、ロックスーツを駄目にしちゃって…ごめん」
劾と共に玲の位置に自分達を転送させていた剣が謝罪する。
「そんな事よりツルギ君自身が無事で本当に良かったわ!」
涙ながらに安堵するシェリー。
「これより帰投します」
劾が通信を入れた直後、玲が続いて
「私は寄る所があるので多少遅れます」
と一言断る。
そして剣と劾は帰投し、玲は「寄る所」へと向かう。
玲が向かったのは我瑠磨ビル。
「う…うう…」
決闘が終わって暫く経った後猪狩が目を覚ます。
「目ぇ覚めたか?お前の『総長』はロックマンに負けたらしいぜ」
「そうか…(何でだよ…何で俺は”安心”してんだよ…!?)」
冷静にウィーゼランが負けた事実を猪狩に告げる馬場。
猪狩であるが上記の心理故内心では安堵しつつ頷く。
猪狩は暫しの沈黙の後覚悟を決める。
「俺のことは”好きに”しても構わねぇ…だけどよ…俺の舎弟達は”見逃し”(リリースっ)てくれねぇか…アイツ等は…
至らねぇ俺が”巻き込ん”じまっただけなんだ…」
「テメーうちの舎弟を病院送りにしといて自分の舎弟は見逃せ…だ!?
そりゃ虫が良すぎんじゃねーのか!?」
「ううう…」
凄む馬場に対し猪狩は絶望しかけるが…
「何て言うと思ったか!?お前じゃあるまいし!」
先程自身が言った事を否定するとこの場の一同に向き直る。
「両家の皆々様、この度の一連の騒動は飽くまで謎のロボットが引き起こしたもの!!
それ故に被害者でもあるこの男には出来る限り寛大な処遇をお願い致しやす!」
深々と頭を下げる馬場。
彼に異を唱える者は誰もいない。
「な、なんだよ、”お情け”でも掛けて”マウント”取る気かよぉ!?」
惨めな想いをした猪狩は思わず馬場に問う。
「勘違いするな、お前との因縁を謎のロボットの横槍で終わらせたくねぇだけだ」
馬場は冷静な口調で応じる。
「クソババア…どこまでもムカつく野郎だぜ…!」
「猪狩の兄貴…!!…!?」
悪態をつく猪狩に対し翔は一瞬拳を固めるがすぐにハッとする。
「これじゃあ…認めるしかねぇじゃねーかよ…テメーが…”一握り”だってよぉ…ブヒィ…」
猪狩は冒頭のように嗚咽する。
「一握り?何のことやら…」
馬場が呆れていると猪狩は赤井に向き直る。
「親父…この度は醜い嫉妬心に駆られてやらかしをしてしまい、謝罪の言葉も見つかりません…今まで…お世話になりやした…」
猪狩は赤井に別れの挨拶をするが…
「嫉妬…結構な事じゃねぇか…」「親父?」
赤井の思わぬ一言に猪狩は唖然とする。
「誰かを羨む気持ちは己を向上させる原動力になる。
嫉妬心が無けりゃ進歩も向上も何も無ぇままだ…
あちらさんの馬場くん程の漢を見返すのは容易じゃあねぇ、
だからお前は今回のロボットの存在を『近道』だと思ったんだろうな…
それで道を踏み外しちまいそうになったんだな…
俺はお前のひたむきさをよく知っている、
そのひたむきさで正しい道へと突き進んでいけば馬場くんを見返す程の漢になれるだろうがそれには道標が必要だ…
だからよ、これからも親として子供のお前を正しく導かせちゃくれねぇか?」
「オ゛ヤ゛ジィィィイ~~~~~~~!!!!!!!!!
ブヒィ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!」
号泣し縋りつく猪狩を赤井は優しく受け止める。
「ウ…ウウ…ハッ!!ビ、ビベバン…ウビノアニピバズビバベンデジダ!!」
「フフ…構いませんよ」
この光景に感動して泣きかける翔だったが側に美音がいる事に気付き、滑舌が悪くなりながら謝罪し美音は微笑みながら返答する。
「どうやら、私の出番は無かったみたいだね…」
この一連の流れを物陰から見ていた玲は帰投した。
その直後。
「だけどよぉ、損害を与えた分は自分で償って貰うぜ?」「へ?」
ニッコリとほほ笑む赤井。
一方で猪狩を除く路上で捕縛されていたマッドウィーゼルズ構成員達は汰威超組並びに赤灯会の構成員達が手分けして救助した。
その際両組織はロックマンに恩義があるという事もありマッドウィーゼルズ構成員達はこってり絞られたという。
後日…
新宿区二丁目。
「先輩!終わりやした!!」
「そうか、じゃあ次の配送行こう、な!」ジュルリ…
ゾクッ!
猪狩は「マッドウィーゼルズ事件」で実害を受けた熊害の会社「シシマル運送」で
損害を与えた分だけ働く事となっていた。
肉体労働は猪狩には苦では無かったが苦しかったのは社員たちの自分への視線やスキンシップ。
そう、このシシマル運送の社員は全員熊害と同じ道の人であり、雰囲気も熊害に似ているのだ。
「赤井の旦那に免じて今回はこれで勘弁してやるけどよぉ、次は無ぇぜ!!
『自分を売る』つもりがあんならまたやらかしてもいいけどな、ガハハハハハ!!!」
「ハ、ハヒ…」
早々に職場復帰した熊害から圧を掛けられる猪狩はイノシシというより最早借りて来た猫のようである。
「この間の外道並に上玉じゃねぇか…へへへ…」
「一時しかいねぇのが勿体ねぇぜ…!」
「この辺がセクシー…エロい!」
図らずも「モテ期」が到来した猪狩だったが当の本人はと言うと…
「(男にモテても…嬉しくねぇ~っ!!!!!!!!!)」
内心絶叫しつつも猪狩はこの件で己を磨く事を固く誓ったのであった…
渋谷区のショッピングモールでは…
「馬場…!」
劾と馬場がばったり会った。
「桜井じゃねぇか、この間カツアゲした金だけどよ…」
申し訳無さそうに言う馬場に劾は僅かに期待する。
「この金でチーム全員の退院とロックマン勝利の祝賀会を開催する事にしたぜ、お前も来いよ!」
因みに参加者には劾の知り合いも多く、更に劾自身がロックマンである為悪い気がしなかった。
「ハハ、何だよそれ…」
苦笑いを浮かべながらも劾は快諾し祝賀会の日時と場所の情報を共有する。
檜町公園では…
「博士、ウィーゼランとの戦いで改めて気になったんですが…デルタは最初から人間に危害を加えるつもりはなくて…
何かがきっかけで人間を攻撃するようになったんですよね?」
気分転換に玲とシェリーが出かけており、その際玲が尋ねる。
「そうね、それこそ最初は赤ちゃんみたいに無知な分無垢で、
学習を経て様々な知識、それから常識を身に着けていったわ。
善悪の区別もつき私への愛情を示すようになって…」
応えるシェリーは幸せだった頃を振り返りながら言う。
「そんなある時、デルタに『異変』が発生した、と…」
真剣な眼差しで玲が言う。
シェリーは過去を振り返りながら最もその原因と思われる出来事を口にし始める。
「それはタイムマシンの実験の時だったわ…
デルタの乗った実験機にエラーが発生して予定した時間より遅く戻ってきたのだけど、
その時のデルタはまるで絶望しているかのような顔をしていたの。
本人に聞いても『ボディの過負荷』の一点張りで
それ以降デルタは徐々に普通に振る舞うようになっていって、
私もそこまで大事と捕らえなかったのだけど…今ではそれしか考えられないわね…」
「タイムマシンの…実験の…事故…」
玲はデルタがそこで途轍もなくおぞましいものを見てしまった事を察し、戦慄する。
シェリーの記憶の中の事故当時のデルタの顔はまるでこの世の終わりかのような深い深い絶望を現していた。
デルタを狂わせた「何か」は、現時点ではデルタのみぞ知る。
続く
※同じく脱字があったので再投稿です。
毎度のことながら更新が遅れまくりました。
まず今回はサブタイトルからしてデルタが「他者を妬む醜い人間には嫉妬する気すらも起こさない力の差を見せつけてやる」
と言って嫉妬深い人間を標的にするという流れになると思われがちだと思いますが
実際は今回の人間の悪役がたまたま嫉妬深かっただけです。
猪狩は第2話で存在示唆されたキャラであり今回で登場しました。
モチーフはイノブスキーですが外観は某バトル漫画の雑魚が、台詞は某不良漫画のキャラ全般の台詞が元ネタです。
彼には卑劣な面もありますがこれはX7でモチーフのイノブスキーがタイマンとか言いながら
実際は部下に攻撃支援させてる事に因んでます。
彼は不良漫画などでよくある「親切にしてくれた人間が実はヤクザで危ない事をさせられそうになる不良」みたいな役回りですが
彼とウィーゼランはある意味互いに加害者、互いに被害者という間柄となりました。
「考坂」ですが何話か先のゲストキャラの一人であり、モチーフはガンガルンですが
バグ大のヴィランの1人からも名前を取っており漢字を変えてます。
彼について今言える事はウィーゼラン並に小柄で猪狩よりも地位が低く弱いという事だけです。
また彼と猪狩、翔は赤灯会のモブの構成員より地位が低く残りのX7の8ボスモチーフのキャラが赤灯会の幹部ないし若頭という事になります。
馬場、強、モンスタートラックは今のところビジュアルが解禁されてない為挿絵は無しです。
馬場ですが本編とは似て非なる性格となりました。
モチーフのVAVAがイレハンではエックスに嫉妬していたのに対し今回の馬場は嫉妬の対象となっているので氷藤同様
モチーフとは対照的な設定となりました。
ハザードベアの名前ですが馬場のモチーフのVAVAが災厄たる存在で末尾に「ベア」と付くライドアーマー2種に乗っている事と
初代総長の熊(ベア)害(ハザード)から取ったというダブルミーニングです。
病院送りにされた馬場の舎弟の名前の由来はX1オープニングステージの雑魚・中ボスです。
赤井ですがモチーフはレッドですが全体的な服装、赤髪、チョビ髭は別の「レッド」を意識しています。
因みに軽いネタバレですがネームドに限ると赤灯会で赤井より背が高いキャラは
五里石とデボニオンモチーフのキャラのただ2人です。
初代赤灯会組長のモチーフは元ネタを考えると有り得ないX7キャラです。
「デルタアタッカーズ」ですがこの小説の用語でデルタの手下のメカニロイドの内、弱くて量産型のタイプのものを指します。
現時点で該当するのは浮遊型、サソリ型、二本足型、アンテムポール、シケイダー、キャタピロン、
そして今回登場のホイーリー、オートチェイサーです。
ロールローダーはローダー系メカニロイドの機動力とモルボーラーやマッドグラインダーの重量、装甲、パワーを併せ持つメカとして考えました。
ローダー系のつもりで考えたものの試行錯誤の果てにモルボーラーやマッドグラインダーに近い外観となりました。
またX1とX2のローダー系の敵キャラはどちらも暴走族でしたのでロールローダーが暴走族風なのはX1・2ネタでもあります。
ウィーゼランですがレオゴルドに先駆けデルタに忠実ではないデルタナンバーズとなりました。
これはレプリロイドは一人一人違うという事を示しています。
またデルタと猪狩から悪影響を受け有害な存在となってしまいました。
今回は汚いネタがちょいちょい入りツルギ異聞全編を通して3番目に汚い回となってしまいましたが
最も汚い回はこれを遥かに凌駕する地獄です。
次回は中間ボス(追加キャラ)回で遂に翔がロックスーツを着用します。
本日未完ではありますがロックマンツルギ異聞をギャラリーに掲載しておきました。
主な理由は前のレンタル元のサ終の影響でツルギ異聞の1~4話の挿絵がここでは見られなくなっているからです。
同様の影響はエルフミッションの時、2つ前のレンタル元のサ終によって現れております。
【マッドボアーズ】
特殊なルビを振りまくる会話、元ネタは「特攻の拓」か「忍者と極道」かどっちだろうかと思いましたが、猪狩がウィーゼランにKOされたときのセリフで「あ、前者だ」と思いました。
いかにもな不良集団風ですが公園で語っていた武勇伝の内容は幾らか善行の要素が混じっているあたり、完全なワルではないというか何処か不良ごっこ感も漂っています。
【猪狩進】
一見して劾たちと同級生とは思えない出で立ちですが、序盤で見せた恋愛絡みの慟哭は年相応といえば年相応でもあります。
ウィーゼランを伴って夜の繁華街へ繰り出す場面ではウィーゼランの姿を布で隠していましたが、猪狩本人や旧マッドボアーズ構成員たちはどういう格好をしていたのやら…
流石に世紀末スタイルで街を練り歩くようなことはしていなさそうですが果たして。
街でナンパ男やカツアゲ犯を〆る場面や、心のどこかではロックマンを頼ってウィーゼランを止めたがっていた辺り、他構成員同様に完全にワルにはなりきれていなかった様です。
馬場との決闘で吐露した感情からして、赤井にも言われていたように心に積もったコンプレックスや劣等感が彼をこういう方向に向かわせてしまったのだろうと思います。
ウィーゼラン撃破後、損害を埋めるため働く彼は「色々と」大変そうですが、こればかりは赤井の言うようにきちんと償うほかありませんね。
【赤井刃】
レッドがモチーフとなっている赤井ですが、このツルギ異聞時空では志熊に利用されることにはどうやらなっていない模様ですね。
(まだ描かれてないだけで過去には一悶着あったりやり合ったりしているのかもしれません)
【沖藍武の命日】
雰囲気は和やかながらも、各人の胸中は厳かです。
地の文で語られる“悲しき過去”を思うと、今後もし玲の戦いが竜太にバレた際に彼がどういう反応を示すのかがちょっと気がかりではあります…
【馬場丁司】
金策の手段がカツアゲとはやや情けない気もしますが、それでも病院送りにされた先輩やチーム構成員の面倒を見てやるあたりは情のある人物であることが伺えます。
劾たちからも「ドクズ」などとは認識されていなかったり、猪狩を包む糸をきちんと解いてやったり決闘にあたって周囲のヤクザたちへ手出し無用を宣言したり、また諸々の振る舞いなど、まさに猪狩の言う「一握り」側に当てはまる男だと言えるでしょう。
【VS モンスタートラック】
戦いの幕開けはモンスタートラックをとりまくマッドウィーゼルズ構成員の処理から。
高速道路を飛ばしている時にバイクごと動きを封じられると普通なら衝突、転倒などケガは免れませんが、そこはシルキーガの糸のクッション性能が役に立った模様。
次は大量のメカニロイド戦、
そしてロールローダー。
見た目といい戦闘中に発する声(?)といい獅子雄と“類似”した雰囲気がありますが、なかなか攻撃の通らないローラーや、後方をカバーする音波攻撃などその戦闘能力は侮れません。
剣がロックブレードをテコのように使ってロールローダーをブン投げ、路面に逆さに突き刺さって動けないところをチャージブレードでトドメ…という倒され方はゲームとして再現するとなかなかダイナミックな絵面になりそうです。
モンスタートラック戦における「空になったトレーラーを切り離してぶつけようとしてくる」攻撃はちょっとステージギミックっぽさを感じます。
もしこれがゲームなら…
迫りくる大量のホイーリーまたはオートチェイサーを退ける
↓
第二波に備えて身構えていると突然トレーラーが切り離され、迫ってくる
おそらくこういう感じになり、初見だとトレーラーに対処できずダメージを受ける羽目になりそうですね。
【スプリント・ウィーゼラン】
デルタの指令に表向き従いつつも暴走族や不良に魅力を感じる様子、また猪狩のウソをあっさり信じ込んでしまう様子からは、恐らく作られてから日が浅い故のある種の子供らしさを感じさせ、
一方、マッドウィーゼルズを拡大していく中での行動の容赦の無さはこれまでの敵レプリロイド同様のものを感じさせます。
ウィーゼランに対し劾が説得を考えつつも結局戦闘に至る…という流れにはなりましたが、猪狩のことを「可愛い舎弟」と認識していたりチーム構成員を守る意識はあったりするという点、
また玲の指摘に対し言葉に詰まったり「力による解決は時と場合によっては必要かもしれないけど、それだけじゃ人の上に立つ資格なんて無いんだからね!!」という発言に言い返せていない辺り、和解・味方化の目はまだあるのではないかとも思えますね。
ロックマンとの戦闘においては木の上に佇み、被った布が燃えていって徐々に姿が露わになるという登場の仕方をしましたが、ウィーゼラン本人は不良キャラながらこのシーンには武術家キャラのような趣もあって、絵面を想像してみるとなかなか格好いい登場の仕方だと思います。
【我瑠磨ビル】
「がるまビル」の名前でおや?と思いましたが、読み進めるとやはりここが志熊と竜太の決闘場所でしたね。
恐らくかなり言われまくっていると思いますが“赤い”イレギュラーに“全滅”させられたというあたり、X4の回想で名前のみ呼ばれたガルマなるハンターの元ネタは明らかに「機動戦士ガンダム」のガルマ・ザビですね。
そういえばガルマ役の森功至さんはX7でカラスティングの声を担当されていました。
【翔】
次回からはいよいよ彼もロックスーツを着るようですが、これまで怒りにかられ暴走する様子が描かれてきたので、ちょっと不安がありますね。
猪狩の愚行を止めようとしたシーンのように力及ばずという場面もありましたが、その分はその分でフラストレーションが溜まっていそうでもあり…
感想有難うございます!
>マッドボアーズ
彼等の、主に猪狩の特殊なルビを振りまくる会話の元ネタは仰る通り特攻の拓です。
あの台詞回しはネットユーザーだけでなく商業誌でもパロディにされた事もあります。
自分からは悪事を働かず人助けする事すらある彼等はデルタとは異なる偽悪者と言えるかもしれません。
>猪狩進
モチーフのイノブスキーが若々しさを感じさせない雰囲気でしたので猪狩もそれが反映されたワケでしたが
不良漫画でも迫力や貫禄を出す為老け顔の不良が多い気がします。一概には言えませんが。
ウィーゼランを伴い繁華街に繰り出すシーンですが彼は目立ちたい、力を誇示したいという考えからか
世紀末スタイルのまま街を練り歩いております。
一般人から怖がられたのもその為です。
一方でこの当初は馬場をウィーゼランに倒してもらう気満々でしたのでウィーゼランの正体は隠す事にしていました。
ちなみに「小柄で茶色の人外」という事でこれはETネタでもあります。
彼は漫画に出てくるような美化された不良を気取っている面があり、熊害の一件以来好き勝手暴れるウィーゼランに付いていく事に抵抗を覚えましたが
それでも馬場への嫉妬心とウィーゼランへの恐怖から付いていかざるを得なくなり、
深層心理ではロックマンに自身とウィーゼランを止めて貰った方がいいと考え始めていました。
天音と馬場の交際が発覚しより一層馬場への嫉妬が強まった矢先にウィーゼランの登場…
この2つの引き金が彼を今回のやらかしへと突き動かした訳です。
ラストですが罪を償うのは人として当然として、彼に「モテ期」が到来したのは序盤に彼が自分の人望の無さに嘆いていることへの皮肉となりました。
>赤井刃
前回の文にあるように汰威超組と赤灯会の抗争は赤灯会側の不義理によるもので、
当時若頭だった赤井を利用したのは志熊ではなく初代赤灯会組長(故人)です。
詳細はこの先の回で語られます。
>沖藍武の命日
これだけ「悲しい過去」があったからには玲は如何にして竜太を説得するか…
これには未だ試行錯誤を繰り返しています。
>馬場丁司
原作同様悪い事もする一方で仲間想いな面もあり卑怯な手段を良しとしない等「一握り」に当てはまる人物として書きました。
実際不良漫画の美化された不良でも飽くまで不良という事で言動や行動に一癖も二癖もあるキャラはしばしば見られる気がします。
>VSモンスタートラック
人間の暴走族を引きはがすのは前回でも描写のあったシルキーガ(とキャタピロン)の糸の丈夫さを活かしたものです。
ロールローダーは例のアレな要素もありますがパワー、スピード、防御力に加え音波攻撃も繰り出すという雑魚よりは格段に上の強敵です。
ロールローダーが投げられるシーンは地面視点でのロールローダーが落ちてくる光景も迫力があるかもしれません。
トレーラーの切り離しはゲームで例えたらイエティンガーステージの構成で進むビストレオステージに近しいものがありますね。
迫り来るトレーラーに攻撃を当てていくほど凹んでいくところまで想像できました。
>スプリント・ウィーゼラン
ツルギ本編でデルタナンバーズが人間社会の事を良く分かっていない描写がありましたのでそれを別の形で表しました。
進行の邪魔となる熊害を煽ったり自身に意見する猪狩に圧をかけるのは従来の柄の悪さと人生経験の不足によるものです。
とはいえ彼の人物像は劾達のデルタナンバーズへのイメージに変化を与えるものであり、次のデルタナンバーズでそれがより顕著にはなるのですが…
彼の登場シーンは言われてみれば武術家キャラっぽくもありますね。
ゲーム本編ではX4のシグマが一番近いですね。
>我瑠磨ビル
言うまでもなく元ネタはX4のゼロのデモシーンの1つのシグマとゼロの過去です。
本家4のモスラーヤや本家6のメットンガーZと公式のロックマンにもパロディ要素が見られますので
X4のガルマも間違いなくガンダムネタでしょう。
「ガルマの『部隊』」と表現されている事からガルマはシグマ達と同じ部隊長であると思われますが
だとしたら第何部隊の隊長なのか、そして実際どんな姿をしていたのか公式が明かす事は永遠にないでしょう。
ガルマの声優はカラスティングと同じとの事ですがロックマンとガンダムでは声優被りが多いですね。
>翔
彼のスーツ着用までの流れはそれこそ試行錯誤を繰り返しております。
今回も含めこれまでの回でも主要な流れはすぐに考え付くもののそこに至るまでの細かい流れは
何度も案を考えては没にして…を繰り返してきました。
しかしこれに関しては一層試行錯誤を要します。
あんなアンタッチャブルなキャラクターがどのようにしてロックスーツの着用を許されるようになるのやら…
執筆お疲れ様です。
今回は暴走族とウィーゼランが絡んだ展開が面白く、印象に残りました。
デルタの思惑とは裏腹にウィーゼランが暴走族に憧れの念を抱いてしまったというのも
レプリロイドの多様な感受性が見て取れて、人間らしさにより近づいている感じがします。
ウィーゼランの様子をデルタがどう受け止めていたのか気になるところです。
美音と玲の恋愛話の反応は初々しさが出ていました。
モンスタートラックは大がかかりな戦闘でしたね。
DASH2のカリンカ大陸のゲマインシャフト号戦を思い出しました。
ロックチェイサーで走行しながらの戦闘は、スピードもあり、よりテクニカルなスキルが要求されますね。
特殊武器「ストリングバインダー」で人間とウィーゼランを引き離すのは、
救助とお仕置きの意味合いもあり、有効な使い方でしたね。
ウィーゼランの登場の仕方は夜景の効果もあって絵になりますね。
ロックナイフ・ガンでかけつけた玲の登場で剣が間一髪助かりましたが、
その後も初戦闘ながら、実戦でロックスーツを使いこなしており戦闘向きな感じがしました。
結局猪狩は馬場には勝てませんでしたが、嫉妬心を吐き出してスッキリした感がありましたね。
岩本先生のゼロとホーネックの話を思い出しました。
今回の件で猪狩を優しく受け止める赤井は懐の深い方でしたね。
それでは。
感想有難うございます!
猪狩のモチーフのイノブスキーが暴走族であり、ウィーゼランは原作にて首都高で暴走行為をしておりましたので
猪狩とウィーゼランが関わるのは必然と言えるでしょう。
きっかけはどうあれウィーゼランは人間に迷惑をかけたのでこの点で言えばデルタはそれ程問題視していないのかもしれません。
問題視するのはそれこそ人間に友好的で任務そっちのけな者が出た場合ですね…
美音と玲の恋愛話は今回が何かと汚いのでバランス調整をする意図もありました(何)。
モンスタートラック戦ですがゲマインシャフト号戦の他にもDASH1のガイニート―レン戦も意識しました。
因みに挿絵はX2ネタです。
ストリングバインダーによる人間の暴走族の捕縛ですが上記にもあるように前回で語られた糸の丈夫さを活かしたものです。
ウィーゼランの登場シーンですが夜の闇の中炎と月明かりに照らされながら姿を現していくという趣向を凝らしたものになりました。
玲の高機動型ロックスーツは正にウィーゼランとは相性バツグンですが動体視力が向上しているというにはオリジナル設定です。
猪狩はスッキリしたというよりまともな方法で馬場を見返そうと誓ったという感じですね。
仰る通り彼と馬場の間柄は岩本先生版のホーネックとゼロをイメージしました。
赤井は組織の長というだけあって相応の懐の深さを持ち合わせています。
とはいえ流石に自分のケツは自分で拭かせましたが。