「ありがとうございます」
「これで戻れば依頼は完了ですね」
捜索用次元鞄に写真を保存する。
暗がりの中、霧の光だけがわかる外へと視線を向けつつ、その後の足取を確認し始めた。
「……ユンフさんの故郷では、写真という物はありましたか」
「いいえ」
「全て、書き留めていたんですか」
「えぇ」
外へ出る。
霧は相変わらず、都市を覆っている。
「……記録媒体は書物のみ」
「此方に来てから随分経ったと思います」
「確かに貴方は記録に残し、種が咲かせた花の色や温度を感じて生きているのでしょう」
周囲に敵性存在が居ない、安全に手を振って帰路につけるか目線で確認する。
その必要もない事を悟ると、二人は再び歩み始めた。
「ですが、都市の物語さえも貴方は包み込み、それを伝える為に記す」
「全てを記憶に留めるなんて、とてもじゃありませんが無理です」
「書き換えられてしまうものだってある。そうして紡ぎ続けた冒険の一幕でさえ、記憶は朧気になってしまう」
「繋ぎとめるには、現物が存在してこそです。色鮮やかにその時を思い返すには、紛れもなく脳に直感的に示す記録が必要です」
「それを味わう事がなければ、人は忘れる。その人と話した会話の内容、一緒に行った場所、顔も、声も」
「……忘れてしまわないのですか、思い出を」
歩を緩めることなく、顔を合わせる事もなく、12区の巣の危険地帯を悠々と進む。
セイブの問いかけには、彼の色があった。
その問いかけは決して問い詰めるものではなく、ユンフの思い出に対する向き合い方に対し、
何処か救いを求めているような色があった。
「セイブさんは、物心ついたときの記憶ってありますか」
「……記憶に残っているのは、母を困らせるような、赤子らしい行動をしている自分ですね」
「……ユンフさんはあるんですか?」
「俺はないんです。物心ついた時の記憶が」
「両親は早くに他界してしまっていたが故に、その声も顔も、俺の記憶に存在しない」
「確かに居た事は、村の人々からの思い出を通じて感じているんですが」
「俺という枠を形成する要因にはなってもらえなかったんです」
「貴方が村長の保護下の基で、村で暮らしていた理由ですね」
「そう。結局、俺の旅路に於いて、『肉親』という存在は彩りを持たなかったんです」
「だからでしょうね。物心ついたときから、僕という存在として、俺は憂鬱に沈みこんでいた」
「ただ、思った事があるんですよ」
「両親は、俺を愛してくれていたんだろうなって」
「……それは、何故……?」