「ティパの村にはいろんな技術を持った家がありました」
「鍛冶屋、錬金術、猟師や農家」
「俺が生まれた家は、牛飼いだったんです」
「でも、後継人なんざ居ない。残された俺は赤子も同然」
「マレードさんや、村の皆が協力して、畜産業を補ってくれました」
「……」
「だけど、村の人々にも老いは来る」
「俺が一人で立てる頃、牛飼いに従事するには人も足りず、他の業種で手一杯な時だった」
「クリスタルキャラバンになる人は、皆若い人ばかりだったから」
「だから、俺は片手で数えられるぐらいの年齢にして」
「牛飼いの経験を積む事になったんです」
「皆が牛の世話をしているところを眺めていた」
「だから、見様見真似で出来るところもあったのかもしれない」
「ただ、皆出来るはずがないって心配してくれてたんです」
「限界集落においては、役割分担に幼子も担当を割り振られる可能性は十分にあります」
「……ですが、孤児も同然の貴方に……」
「皆、そう思ったんだろう」
「……初めて牛の目の前に立ったんだ」
「何かを学んだわけでもない。責任という漠然とした押し付けられざるおえなかった重圧を感じながら」
「俺は立ちすくんでいた」
「でもさ」
「その時、俺は何故かわからないけど」
【大きな大きな命の責任を担うんだ】
【愛情を以て、村の皆の為にも、頑張るんだぞ】
【大丈夫。皆貴方の事を分かってくれている】
【その小さな手で、命を繋いでいって】

「声も顔も知らない人の言葉が聞こえてきた」
「本当に言ってたのかも分からない」
「幻聴だったのかもしれない」
「その時の俺は塞ぎ込んでいて、何をするにしても無気力だったけど」
「ただ、その言葉を聞いた時」
「自然と牛の世話が出来たんだ」
「きっと俺の両親は、こうしてきたんだろうって、そう思った」
彼の表情が、僅かに緩む。
昔の風景に想いを馳せる。
「記憶に存在しないけど、声も顔も何もわからないけど」
「それでも『覚えていてくれている』んだと思うんです」
「俺という個は決して俺一人で成り立つことはなかった」
「それを作りだしてくれた人達が居た」
「記憶になくとも、魂に刻んでくれたものがあったから」
「それは、愛してくれていた証だったから」