「他の宛てがあるんでしょうか」
「……」
「シ協会に頼むのが最も効率的だ。金は嵩むが、お前に頼むより正確だったろうよ」
「南部シ協会は1課含め、膨大な業務依頼における不在が続いています」
「終止符事務所。標的を間違いなく狙撃出来るはず」
「リーウェイさん達は宗教的拷問組織への張り込みで受注依頼停止済みです」
「ベイヤード事務所。あの荒くれ共なら巣の施設を荒らす事ぐらい余裕だろう」
「チャールズ事務所に所属していた人が中心となった事務所です。その金額は膨大ですよ」
名を挙げるたびに、選択肢は一つずつ潰れていく。
それは可能性の否定ではなく、言い訳の排除だった。
「……」
「さっきからなんだ……」
依頼人の声に、苛立ちと戸惑いが混じる。
「業務として不履行だった依頼です」
「俺に出来る事が、まだある、という提示のつもりでした」
「……透明の軌跡、話に聞く限り、お前はいつもそうだな」
「感情を"業務外"に分類したつもりで、結局すべてを持ち帰る」
「絆されたか?アレは最早人間として生きていくことの出来ない技術の産物だ」
「お前や俺の個人的感情によって延命されていいものではない」
「依頼主がそれを許容するなら、問題はありません」
「馬鹿が。許容するのは俺ではなく、あの子だ」
「……最初から分かっていた」
「お前が、この依頼を完遂できないことを」
「思い出を抱えていくフィクサー」
「記録消去なんて仕事は、最初から相性が最悪だ」
諦観の温度。
「だからこそ、他に出来る事がある」
「俺の事を調査したんでしょう」
「そして、俺がこの依頼を受けて尚、失敗することだって分かっていたはずだ」
「なら、俺が提示する方向標を、貴方は既に分かっているはず」
「……俺にあの場所へ赴けというのか……」
「えぇ」
「俺は後押しするだけ」
「ふざけるな……」
「いいか、俺が望む、俺の出す依頼とは」
「記録の消去だ」
「後悔の消滅ではない」
「俺は、忘れたくて、そして忘れたくない」
「忘れてはならなくて、それでも忘れなければならない」
「俺も、あの子も、都市で生きていくには不器用すぎるから」
「俺達は、死ななくてはならないが故に」
その言葉は、裏路地に落ちる前に、依頼人自身の胸に突き刺さった。
そして――霧の向こうで、
白い廊下の匂いが、静かに立ち上り始める。