カオスドラマX

Gray Traveller / 470

470
わったん 2026/01/18 (日) 22:12:15 >> 468

都市以外に生を授かったら、俺はどんな人間になれたのだろうか。
時々考える。俺自身が望む俺以外の存在の理想形を。
それは決して都市に存在しない。
俺はこの世界の事しか知らないが、他の世界があったらきっとそこは自由で、平和で、
生きる事がとても素晴らしい世界なんだろうと、勝手に思っていた。
その思考が発生する要因。
それは俺が『疾患維持無変化培養保存技術』を取り扱う研究員だったから。


――俺がまだ工場……研究員だった頃だ。
病院は、白かった。
ただしそれは清潔の白ではない。
光を反射しすぎるがゆえに、影を拒む色だった。
壁も床も天井も、等しく同じ明度で統一され、
人の輪郭だけが異物のように浮き上がる。

「旧個体患者のバイタル異常が常に一定値を示しています」
「この状況を保存して、崩壊アンプルの類似製品を扱います」
「ニゲラ。異常形態を維持した個体の保存領域確保は滞りありませんね」

病室の一画。
意味を成さない俺を示す固有名詞。
ただ仕事内容を割り当てる為だけに存在する、儀式的で不快な言葉。

「技術生産量は既定値に達している」
「既に個体としての在り方は人間の尊厳さえ融解した低俗なものへと変貌済み」

都市における保存技術はU社が所持している現状保存容器。
だが、俺達が扱う保存は物質的な保存ではなく、
概念的保存。病気の進行度の保存を主とした製品製造。

「では重症患者向け重篤治癒アンプルへの保存患者への変更としましょう」
「治癒シーケンスは此処までとし、以降は保存シーケンスへ」

機械的で、情熱も感じない仕事の会話。
エンゲージメントなど存在しない、冷えた職場。
最早忘れたが、この病院で働く俺の上司や同僚との対話は、
常に技術に囚われていた。

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