会議室で贅沢なテーブルを囲みながら、資料を眺める。
「治癒シーケンスにおける完治目的での疾患切除アンプルを投与した瞬間、新個体N381が示した拒絶反応に儂は見覚えがあった」
「再生医療用アンプルを投与したのは、新個体381の感情表現に微かな反応が見えた故」
「儂は研究員としてその在り方を示したまで」
「新個体N381が求めているのは治癒ではなく、存在性」
「なら儂は新個体N381という個体性よりも、当個体を置き去りにした未来への群体の為に研究する」
「……」
「……治癒シーケンスはまだ続行中のはずだ」
「都市的合理性を求めるのもいいが、彼の虚弱な身体を無暗に引っかき回すのは最善ではないだろう」
「痛覚遮断処置はどうだろうか」
「ニゲラらしくない発言ですね」
「ですが、新個体N381の正しき反応が喪われる事は都市的損失としては憚れない」
「対象個体への担当医、次回診察時、治癒シーケンスの段階において痛覚遮断処置を実施してください」
「……」
「見守りましょう」
「我々は、この技術を世界に羽ばたかせるのです」
再生医療はK社の特異点。
一企業が翼と同等の技術を扱うには、その特許さえ上回る効果や、独自性が求められる。
例え翼に成り得なくとも、その土俵で戦うというだけでも莫大な金に繋がる事は明白だった。
なら取るべき行動は決まっている。
新個体N381。
その治癒シーケンスを解除し、保存シーケンスへの移行。
治す事はなく、その身体に秘められた技術を抽出し、その身体に俺達の技術を集約する。
そうすれば、都市に生きる未来の人間の病気を一手で治せるアンプルが登場する。
数値的に見ても確定していた。
新しいアンプルを築き上げて、俺達の企業は間違いなく翼に成り得る技術を有すると。
彼の為に放棄される患者。
そして彼の為に奔走する我々研究員。
今この時、この病院の全ては、彼の為に動いていた。
彼へアンプル投与を施す研究員は、日々の研究結果を資料室に貼っていく。
一枚。
次の日、一枚。
次の日、一枚。一枚。
次の日、一枚。一枚。一枚。
次の日、一枚。一枚。一枚。もう一枚。
……一枚……。
…………一、枚…………。
…………………………………………。
…………一枚…………。
……一枚……。
一枚。