「ニゲラ、個体N381との接触は?」
「必要ない」
「あれほどの逸材……君が治癒シーケンスを推奨したからこそ見付けられたものなのです」
「会ってあげては如何ですか」
「必要ない」
「挨拶すらしていないのでしょう」
「必要ない」
「個体N381」
「本日に治癒シーケンスを打ち切る旨を開示されます」
「なら、必要なのは我々研究員の言葉です」
「必要ない」
「ニゲラ」
「貴方の言葉を、個体N381は必要とするかもしれません」
「必要ない」
「ニゲラ」
「必要ない」
「ニゲラ」
「必要ない」
「ニゲラ」
「必要ない」
「ニゲ――」
「アベリア」
「……」
「わかってくれ」
「……貴方は自分が提示した治癒への道が」
「個体N381を被検体に変えてしまったことを憂いているのですか」
「あの時、俺が治癒シーケンスを提示した」
「馬鹿だった。技術の進歩で人を救うその在り方に憧れてしまったが故に」
「俺は彼の延命の道を断ったんだろ」
「……」
「アベリア、お前にとって、彼はなんだ」
「それを言えば、君の顔が歪む事を私は知っています」
「……」
「不思議ですね。君ほど都市に順応していた人間が」
「こうして一人の患者に心揺さぶられているのは」
「……」
「ニゲラ」
「私達は『疾患維持無変化培養保存技術』という」
「扉であり、旗であり、足枷であり、病気に蝕まれて生きていかねばなりません」
「個体N381を通して、私達は未来へと羽ばたくのです」
「其処には君も居ます」
「君も居てこそ、私達は医者として都市に蔓延る疾病を正していけるのです」
「……」
「個体N381は貴方に会いたがっていました」
「面会は保存シーケンスにおける現状保存アンプル表面浮上効果時間外であれば何時でも可能です」
「個体との対話スケジュールに取り組んできます」
「貴方も来ますか」
「……必要ない……」
「了解しました」