……。
アベリアが彼の病室に入った後だ。
俺はその病室の引き戸に額スレスレになるほど、接近して突っ立っていた。
その時、俺がこの行動を取ったのは彼に会いに来たからではない。
その残酷な提示に立ち会うべきだと思ったから。
だが、それさえ俺は出来ず
《回復の見込みはない》
中から聞こえてきた言葉に、
アベリアが感情を殺して放った言葉に、
俺は大人げなく声を荒げてしまった。
病室から飛び出てきたアベリアに抑えられた。
その最中に見えた、ベッドで横になる彼の素顔を見た時。
「――ッッッ」
「――ごめんよ――」
俺は、何も言えず、ただその日は涙を流すだけだった。
俺の精神状態に異常が見られたとして、
アビストラウマ矯正室に送り込まれた。
記憶はない。
だが覚えていることがあった。
俺のトラウマを克服するために、
必要なものを一つ、多額の資金を叩いて買った事だ。
そしてそのテスト用品として、花を掴んだ事。
幾数カ月という時が流れ、
俺は再び病院に戻ってきた。
「おかえり、ニゲラ」
「……久しぶり、アベリア……」
「……すまなかった……」
「私は歓迎します」
「そしてきっと、『彼』もそうだと思います」
「……」
「……必要ない……」
「……そうですか……」
久々の白衣という名の作業着を着て、以前従事していた保存作業に勤しむ。
だが、既にその保存作業の名目は断たれたようなものであった。
「もう保存患者は随分と少ないんだな」
分かっていたことだった。
彼という個体に新技術が見出された時点で、
他の保存患者は最早ただの消耗品であった事。
そしてあらゆる研究員が彼に従事しているということは、
その分だけ、あの資料室に貼られた枚数が増えているということ。
「……」
都市らしい、損得勘定だった。
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