病室に往く勇気さえなかった。
俺は幾日もの間、あの扉が繋がる廊下の遥か彼方で立ち尽くすだけだった。
俺が完治を望んだが故、
彼の善良な笑みを見たが故、
この事実は、後悔として根付いている。
なら、俺は救われていいのだろうか。
俺は彼を救ったのだろうか。
この問いかけ自体に意味などあるだろうか。
俺は都市の未来の一つを潰し、
一人の青年の命さえ護れず、
俺という研究員の矜持さえ溶け切ってしまい、
俺は――。
都市を覆う白、そして黒の世界が訪れた。
白だろうが黒だろうが、俺に圧し掛かる感情に変化はなかった。
L社に近いこの工場は、その振動で大部分が破壊された。
彼の安否が気になったが、その身体が崩壊しているところを観たくなかった。
俺はただ、その病院の隅で息を潜めていた。
都度都度進入してくる輩を目にする。
工場全体を徘徊する組織の連中。
この工場に存在するアンプルを配合して、
俺は融解物質を使って工場に侵入する奴らを悉く蹴散らした。
だが一時、ほんの一時の油断だ。
組織の連中が病室に忍び込んだ時。
俺は今まで入る事の出来なかった病室に飛び込み、
そいつらを消した。
「――」
顔を合わせようとはしなかった。
今でも覚えているあの笑みを彩った顔。
だが、其処に在ったのは……。
空の花瓶を模した悲しい命だったんだ。
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